今日はティファニーで朝食の最後の部分を少し朗読してみたいと思います。 トルーマン・カポーティの小説ですね。翻訳は村上春樹、新潮社から出た本です。 最後の部分です。
「トマトの愛人行方不明。」それから「麻薬事件に絡んだ女優、ギャングに消された?」 しかし、ほどなくこのような報道があった。 「逃亡中のプレイガール、行き先はリオ。」 彼女をアメリカに連れ戻そうとする当局の動きはどうやらなかったかのようだった。 そして事件は時々新聞のゴシップ欄に取り上げられる程度のものにしぼんでいった。 クリスマスの日にサリー・トマトがシンシン刑務所内で心臓麻痺のために死んだ時に ホリーの件はもう一度ニュースとして取り上げられたが、それだけだった。 何ヶ月が過ぎ去り、冬が終わり、それでもホリーからの連絡はなかった。
ブラウンストーンの建物のオーナーはホリーが残していった家財道具を売り払った。 ホワイトサテンのベッド、タペストリー、大事にしていたゴシック風の椅子、 部屋には新しいテナントが入った。ケインタンス・スミスという人物だった。 彼の部屋にもホリーの時と同じくらいたくさんの男性客がやってきたし、 みんなホリーの訪問客に負けず劣らず騒がしかったが、今回はマダム・スネラックは苦情を申し立てなかった。 それどころか、この青年を猫可愛がりし、彼が目の前にあざをこしらえるたびに わざわざフィレミニオンを買いに走ったことだった。
でも春になって葉書きが届いた。 鉛筆の走り書きでサインの代わりに口紅のキスがあった。 「ブラジルはゾッとするようなところだったけど、ブエヌスアイレスは最高。 ティファニーほどじゃないけれど、それに近いかもね。 私はすっごく素敵なセニョールと仲良くなったの。 愛?おそらくは。 とにかく住まいを探しているところ。 セニョールには奥さんと七人の子供たちがいるので、住所が決まったらまた知らせます。 心から感謝。」 しかし住所は、もしそんなものがあったとしてもだが、とうとう届かなかった。 そのことで僕はがっかりした。 彼女に知らせたいことが山ほどあったのだ。 僕の短編小説が二つ売れた。 トローラー夫人が離婚絡みでお互いを排除し合っているという記事を読んだ。 ブラウンストーンの建物を僕は出て行くつもりだった。 そこにはあまりにも多くの思い出が染み込んでいたから。 でも何より伝えたかったのは猫の消息だった。 僕は約束を守った。 そう、とうとう猫を見つけ出したのだ。 何週間もかけて仕事が終わった後、スパニッシュハーレムの通りを歩き回った。 何度も似たような猫を見かけた。 縞柄の猫が前を行きるたびにハッとするのだが、よく見るといつもと違う猫だった。
でもある日曜日、明るい日のさす冬の午後、ようやく僕はその猫に巡り合った。 鉢植えの植物に両脇を挟まれ、清潔なレースのカーテンに体の周りを縁取られ、 いかにも温かそうな部屋の窓辺に猫は鎮座していた。 猫はどんな名前で呼ばれているのだろうと僕は思った。 今ではきっと彼にも名前が与えられているはずだ。 そしてきっと猫は落ち着き場所を見つけることができたのだ。 ホリーの実の上にも同じようなことが起こっていればいいのだがと僕は思う。 そこがアフリカのホッタテ小屋であれ、なんであれ。