**土用の丑の日に、なぜうなぎを食べるのか。**
今回は、夏の風物詩として知られる「土用の丑の日」とうなぎの関係を、陰陽五行説の視点から読み解きます。
一般には、夏バテを防ぐために栄養価の高いうなぎを食べる習慣と説明されます。しかし、それだけでは、なぜ「土用」の、しかも「丑の日」に食べるのかという疑問が残ります。
そもそも土用とは、土曜日のことではありません。陰陽五行説に基づく暦の考え方で、春・夏・秋・冬、それぞれの季節の終わりに置かれる約18日間を指します。五行では、春は木、夏は火、秋は金、冬は水に配され、その季節と季節の間をつなぐ役割を持つのが「土」です。
土は、万物を育てる力を持つ一方で、すべてを土に返す力も持つと考えられました。特に夏の終わりにあたる土用は、火の気が強い夏の影響を受け、「火生土」、すなわち火が土を生むという五行の考え方によって、土の性質が強まる時期と見なされます。
旧暦6月、現在の7月下旬頃にあたる夏土用は、暑さと乾燥が厳しい季節です。土の力が強まりすぎると、水をせき止め、生命力を弱めるような働きにつながると考えられました。そこで、強すぎる火の気と土の気を抑えるために求められたのが、水の気です。
五行では「水剋火」といい、水は火を抑える関係にあります。火を弱めることで、火によって強められた土の勢いも和らげることができます。
ここで重要になるのが「丑」です。十二支の丑は旧暦12月、冬の終わりの月にあたり、五行では水の気に関わると捉えることができます。一方、夏土用の時期は旧暦6月、未の月です。未と丑は十二支を円形に配置すると正反対に位置します。
つまり、夏の未月に強まる火と土の気に対し、反対側にある丑、すなわち冬・水の力を借りて抑えようとしたのではないか、という見方ができます。
しかし、丑は牛を表します。農耕社会において牛は田畑を耕す大切な存在であり、かつては食用にしにくい聖なる動物でもありました。そこで、牛の代わりに「う」のつく食べ物、たとえばうなぎ、梅、瓜、うどんなどを食べる習慣が生まれたと考えることができます。
うなぎを食べることは、単なる栄養補給ではなく、夏の強烈な火の気や土の気を抑え、季節を無事に乗り切るための呪術的・民俗的な意味も含んでいたのかもしれません。
土用の丑の日という習慣には、古代の暦、自然観、農耕社会の感覚、そして陰陽五行説の世界観が重なっています。普段何気なく食べているうなぎの背後にも、日本人が季節と自然の力をどう受け止めてきたかという、奥深い思想が隠されているのです。