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🌟お題「猫カフェに行く犬飼さん」で書いた
カニと電車〜桜木シンコの思い出〜
夏休みになり
私は久しぶりに
実家に帰省した。
母が、いらない靴捨てるから
履かない靴出しといて、と言ったので
靴箱の中を見た。
母は私と弟たちが小さい頃の靴を
まだ置いてあった。
そういうのは捨てないで
学生時代の靴を捨てて、と言った。
勝手に捨てればいいのに、と思いながら
私は自分と弟たちの靴を出す。
母も靴の数を減らしたらしく
スッキリした靴箱の中は
両親だけが使うにしては
広すぎる気がした。
「おじいちゃんが作ったやつ!」
私は靴箱の中に小さな下駄を見つけた。
弟が履いていたものだ。
夏限定でしか履かなかったので
小さな弟はうまく歩けず
結局ほとんど履いていない。
私は小さい頃
母に似て連れられて
母の祖父宅に時々行ったことがある。
川が海に流れ込む辺りに
その家はあった。
川の側にあるその家は
私は海から離れていたと思うけれど
気づけば家の中に小さなカニが歩いていたりした。
おじいちゃんはカニのことは気にしていなかった。
小さな平屋建ての家は
庭の前を電車が走っていた。
おじいちゃんはひとり暮らしで
下駄を作っていた。
私の実家にはおじいちゃんからもらった
色々なサイズの下駄があった。
遊びに行くと
昔からあるインスタントコーヒーを
入れてくれる。
かなり古そうな
マグカップでそれを飲む。
私が行くことがわかると
近所の商店でお菓子を買って
待っていてくれた。
小さい頃好きだったいつも同じお菓子だった。
おじいちゃんは下駄を作る端材で
「犬飼」と自分で表札を作り
玄関に付けていた。
近所に住むネコたちが
おじいちゃん家の庭に遊びに来たり
縁側で毛繕いしていることもあった。
猫アレルギーの父がいるので
私の家では動物を飼っていなかった。
ネコに会えるのが
おじいちゃん家に行く楽しみでもあった。
私が中学生になる前に
おじいちゃんは老人ホームに入った。
夏休みに弟たちと3人で自転車で
その老人ホームに行ったことがある。
車で1時間程かかる距離を小学生が
子どもだけで行くのである。
弟たちは低学年だった。
おじいちゃんは喜んでくれたが
今考えれば無謀だったに違いない。
そんなおじいちゃんは
私がまだ学生の頃
100歳を前に亡くなった。
「お母さん、いらない靴出したよ。」
「ありがと。コーヒーでも飲む?」
「うん。下駄、まだ置いてあるんだね。」
「じいちゃんの下駄、幾つもあったのに
結局あれだけになったの。
やっぱり置いとけばよかったかな。」
「今見ると、鼻緒の柄とか
当時は気づかなかったな。」
私の夫も猫アレルギーなので
私は猫カフェに行ってみたいとずっと思っている。
けれども、ひとりで入る勇気がない。
「田舎のゆっくり走る電車見ながら
ネコ可愛がってたあれもある意味
猫カフェだよね?」
「なぁに?ひとり言? はい、どうぞ。」
「あれ⁉︎これ、おじいちゃん家にあったマグカップじゃない!」
夫は隣でアイスコーヒーを飲んでいる。
(2022年7月22日投稿)
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