幻の無声映画…何が彼女をさうさせたか
クライマックスに向かう場面の前半
その活動弁士の語りを蓄音機で紹介します
次回はいよいよ後半‼︎ すみ子の運命は…
#何が彼女をさうさせたか
幸せ〜心中〜天使園の段
#活動弁士 熊岡 天堂
1930年録音
朗読にどうぞ
すみ子 ...不幸な生い立ちのヒロイン
新太郎 ...すみ子の幼なじみ
おかく ...天使園の同僚
うめ子 ...婦人収容所 天使園の園主
<文字起こし>
この夜、この屋のせがれタツオの無体の恋慕に、すみ子はその恐るべき魔の手を逃れ、濡れネズミのごとくになって本所の裏町なる新太郎の元を訪れた。
不思議な運命の力は、今年19になる新太郎と16になるすみ子をして、その夜から固く結びつけたのでありました。
こうして楽しい二人が愛の生活も、新太郎の失業から生き行くべき道は失われて、二人は遂に死の道を選ぶより他にはなかった。
彼らは一週間の後、相模灘の傍らに佇んでいた。
静かに打ち寄する満ち潮を青白い月の光が寂しく照らしておりました。
「どうして人間のしていることってみんな汚いんでしょうねぇ。」
「人間にだって随分きれいな世界はあるさ。ただ僕たちが知らないだけなんだ。けれどもせっかく嬉しい関係になりながら、金に詰まって死ぬなんて情けないなぁ。」
「でもあたし、あんまり続けて色々な世界を見てきたせいか知れないけれど、もう生きていくのが嫌になりました。」
二人は涙の中に固く手と手を握りしめ、扱(しご)きによってその体を結び付け、遂に岩頭(がんとう)から身を躍らしたのでありました。
けれどもすみ子は再び救われた。
時は流れて五月の初め、スミレ婦人救護会の手によって彼女に与えられた新しい世界。
入り口には「富める者の天国に入(い)るは難(かた)し」と記されてあった。
ここはキリスト教婦人収容所の天使園であります。
人の愛に飢え瑕疵した者が神の愛を求むることは決して無理ではないのであります。
何故ならば神を信ずる者の言葉には「神は愛なり」と説かれてある。
この天使園におかくと呼ぶ30を過ぎた隣宅の女がいた。
おかくは教会の力によって正しき者として出園を許される日でありました。
「ねぇすみちゃん、誰だって出ていく者に手紙を頼むんだから、お前さんのも出して上げるからお書きな。」
「でもあたし、もう思い切っているんですわ。」
「心中までした仲でそんなに容易く思い切られてたまるものかね。向こうはきっとお前さんよりも恋しがっているんだよ。それに助かって居所さえ知れているんじゃないか。」
「でもあたし、新しい生活に入る気なんですの。」
「新しい生活って神様かい。あぁ嫌だ、空っきし人の自由を認めない、手紙一つも書けないわが天国よ。この少女を哀れみ給えだ。」
注) 扱き...扱き帯。布をしごいてしめる帯
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