■ なぜ今の若者は「無気力」に見えるのか?
「最近の若者はやる気がない」「すぐに諦める」「目標を持たない」
こうした言説は、時代が変わるたびに繰り返されてきた。
だが、今の若者の無気力には、単なる「やる気の欠如」や「根性論」では説明できない根深い構造がある。
それは、**脳科学の視点から見た「報酬系の飽和」と「身体的フィードバックの不足」**という現象である。
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■ 脳の“報酬系”は、本来「行動」と結びついている
人間の脳には「報酬系」と呼ばれる仕組みがある。
行動して成果が出ると、脳内でドーパミンが分泌され、「快」の感情が生まれる。
課題をクリアする
誰かに感謝される
自分で作った料理が美味しい
こうした行動と結果の因果関係が、**「動けば報われる」という感覚(自己効力感)**を育む。
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■ だが、現代の社会では「行動しなくても報酬が得られる」
今の若者は、幼少期からスマートフォンやSNS、YouTube、ゲームに触れて育っている。
これらの環境では、行動しなくても快楽刺激が脳に直接届く。
動かずとも美しい映像や成功体験が「見れる」
簡単な操作で「いいね」や「承認」が得られる
自分が体験しなくても、他人の成功体験を追体験できる
その結果、脳の報酬系は**「現実を介さずに満たされる」ことに慣れてしまう**。
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■ 結果として、“行動する意味”が希薄化する
これは極めて深刻な事態だ。
動いても動かなくても、同じような報酬が得られる
苦労しても確実に結果が出るとは限らない
むしろ、動かない方が美しい世界に触れられる
こうした環境の中で育った脳は、「行動する理由」そのものを失ってしまう。
つまり、若者が無気力になっているのではなく、「行動によって得られる意味」が感じられなくなっているのである。
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■ 「脳の省エネ化」と「経験のスルー」が同時に起きている
さらに言えば、スマホやバーチャル体験により、「一時的に快感を得られるが、深い記憶には残らない」状態が日常化している。
何かに感動しても、数分後には別の情報が流れ込んでくる
自分で苦労して経験しなくても、他人の体験を疑似体験できる
これにより、脳は「深く考える」や「意味づけをする」回路を使わなくなる。
これは、**無気力というより「省エネモードの脳」**と表現する方が近い。
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■ 回復の鍵は「身体性」と「再現可能な達成体験」
このような構造に対し、単に「がんばれ」と言っても意味がない。
鍵になるのは以下の2点である。
1. 身体を介したリアルな因果体験
→ 自分が動いたことで何かが変わったという実感。土を耕す、火を起こす、料理を作るなどの経験。
2. 再現可能な“ちいさな成功”の積み重ね
→ 成功が「偶然」ではなく「自分で再現できた」という感覚が、自己効力感を取り戻す。
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■ 結語:「行動しなくても満たされる脳」は、実は脆い
今の若者の無気力は、個人の性格ではなく環境と脳構造の問題である。
そして、報酬が飽和した脳は、極めて刺激には強いが、本質的には不安定で、燃え尽きやすく、外部からの依存度が高い。
だからこそ、私たちが考えるべきは、「どうやって若者を動かすか」ではなく、
> どうすれば、“動くこと”が報われる世界を、もう一度彼らに体験させられるか。
その問いに、大人もまた真摯に向き合うべき時が来ている。