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しずく採集士レイ |第三話 封じられた欠片

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短編小説『しずく採集士レイ』(3/10) 第3話|封じられた欠片 ──夜の深さが、あらゆる音を吸い込んでいた。 レイの部屋は、記憶貯蔵区のすぐ裏。人工照明を落とせば、星の見えない空がただ広がる。 けれど今夜は、その空すら、どこか遠くに感じられた。 … 5111番のことが頭から離れない。 あの共鳴音。そして、画面に浮かんだ文字。 「…… "みつけて" 、って、一体どういうこと…?」 ── その日、浅い眠りの中で、レイは夢を見た。いや、夢というより、どちらかというと記憶の断片のような映像。 微かな”海鳴り”のような音。 誰かの笑い声。 そして、背を向けたまま、遠くからレイを呼ぶ──名前のない誰かの姿。 「……だれ?」 レイの目が覚めたとき、胸はまだひどくざわついていた。夢の名残は、霧のように指のあいだから零れ落ちていく。けれど残っていた。“忘れたくない”という、はっきりした気持ちだけが。 …レイはふらりと立ち上がった。 施設は深夜の静寂に包まれている。監視システムは作動しているはずだが、なぜか警報は鳴らなかった。まるで、この侵入がすでに誰かに予感されていたかのように。 …保管庫へ向かう。昼間見つけた、あの扉へ。 『特別保管室』 三重のセキュリティパネルが、夜の闇の中でも冷たく光っている。なのに── レイが近づくと、パネルが一つ、また一つと、音もなく解除されていく。 「……ナンで?」 最後のロックが外れ、重い扉がゆっくりと開いた。部屋の中央に、5111番のシズクが浮かんでいた。透明な保護フィールドの中で、かすかに脈動するように光っている。 レイが一歩近づくと、 ──キィィン…… あの共鳴音が、今度ははっきりと響いた。 「ワタシを、知ってるの?」 レイは保護フィールドに手を伸ばした。触れた瞬間、 ──バリッ! 激しい拒絶反応。レイは弾かれるように後ずさった。でも、その一瞬の接触で何かが伝わった。 ──海。風。笑い声。涙。そして約束── 「っ……!」 まぶたの裏に、鮮明な映像が焼き付いた。誰かの手を握り微笑む女性。でも、その横顔は光ではっきりと見えない。 ──その瞬間、部屋中にアラームが鳴り響いた。 〈不正アクセス検出。ただちに退室してください〉 … SORAの声?? でも、振り返ってもSORAはいない。 ただ、なぜかいつもみたいな緊急性が感じられない声。まるで、形式的な警告のような…。 レイは最後にもう一度振り返り、5111番を見つめた。 しずくは相変わらず拒絶の光を放っていたけど、今はその光の奥に、確かに ”誰かが待っている” ような温かさを感じとれた。 ──翌朝、レイが目覚めると、右手の手のひらに小さな光のかけらが残っていた。 「……昨日の朝と、同じ?」 光のかけらは、レイの寝覚めに呼応するように、ゆっくりと胸の方へ浮かび上がると、そのまますっと、胸の奥に吸い込まれるように消えた。 —— トクン… その瞬間、わたしの中で何かが静かに灯ったのを感じた。それはまだ小さく、でもそこに確かにある存在として。 (…第四話へ続く) ▼第三話のnoteはこちら▼ https://note.com/chikara_ctd/n/n6db5f99d136f ############################## ▼ここまでのスタエフ朗読▼ 第一話「拒絶されたシズク」 https://stand.fm/episodes/685f597b00ccd5e38e9288cd 第二話「誰かの気配」 https://stand.fm/episodes/6860fb7174f0b7c44d55a043 ############################## #朗読 #しずく採集士レイ
7月1日
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