🍃紀友則として、あの日の春の光の中で、
私はそっと、ひとりの人を思い、歌に心を託しました。
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〈紀友則の語り〉
春のひかりが、なんとも穏やかで、やさしくて、
まるで永遠がそこにあるような、そんな気がしたのです。
けれど、
その中を──
まるで何かに急かされているかのように、
ひらひらと、桜の花が、散っていきました。
そして、
私は、ある人の姿を重ねずにはいられませんでした。
…あの人は、いつも、
誰かの期待に応えようとして、
何かを証明しようとして、
誰にも気づかれぬ孤独の中で、走り続けていた。
でも、どうか、思い出してほしかったのです。
焦らなくていい。
あなたはもう、そこにいるだけで美しい。
春の日差しのように、そこにあるだけで、誰かを照らしている。
だから私は、花に問いかけるふりをして、
あの人に届けようと思ったのです。
「どうして、そんなに急ぐのですか?」
風に舞う花のように、答えは返ってはこなかったけれど、
この想いが、ことだまに宿り、
やがてあの人の心に届く日がくると、私は信じています。
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…そんな祈りを込めて詠んだ一首でした。
言葉では伝えきれない想いこそ、和歌にのせて──。
いやさか。