その人の気持ちになってみよう朗読
~リモコンを置く場所を決めてる人~
👹ーーーーーー📖✨
6:35 『テレビのリモコンがないっ』
作:👹🐤
――ない。
ない、ない、ない。
……テレビのリモコンが、ない。
さっきまで、あったはずなのに。
ソファの上?
ない。
テーブルの上?
ない。
いや、ちょっと待て。
落ち着け。
私は知っている。
こういう時、人は大体――
ありえない場所から発見する。
冷蔵庫の中とか。
本棚の奥とか。
なぜか洗濯カゴの中とか。
……いや、さすがにそこまではやらない。
やらないはずだ。
……やらない、よね?
――いや、違う。
問題はそこじゃない。
なぜ、決まった場所に置かなかったのか。
私にはある。
リモコンの“定位置”が。
テーブルの右端。
角から5センチ、縦向き。
そこに置いてあれば、
目を閉じても取れる。
いや、むしろ――
そこにあるからこそ、安心できる。
人間という生き物は、
「予測できる状態」を好むらしい。
心理学では、
これを“認知的安定”なんて呼ぶ。
いつも同じ場所にある。
いつも同じ動作で取れる。
それだけで、脳は
「世界はちゃんとしている」と判断する。
……逆に言えば。
そこにないだけで、
世界がほんの少し、ズレる。
リモコンひとつで大げさだって?
いやいや。
これはただのリモコンじゃない。
秩序の象徴だ。
あれがあるべき場所にある。
それだけで、今日も一日、
ちゃんと生きていける気がする。
……だからこそ。
ないと、困る。
いや、困るというか――
落ち着かない。
「どこに置いたっけ」
この一言が、
じわじわと心を削ってくる。
さっきまでの自分の行動を、
逆再生するみたいに辿っていく。
テレビを消して。
スマホを見て。
コーヒーを飲んで。
……その時、私はどこにいた?
いや、待て。
もしかして、無意識に持ったまま移動した?
キッチン?
いや、ない。
寝室?
ない。
……トイレ?
いや、さすがにそれは――
……ない。
よかった。
まだ人としてのラインは守れている。
でもね。
こうやって探している時間って、
ちょっとだけ、自分と向き合ってる時間でもある。
「なんでここに置かなかったんだろう」
「なんであの時、気を抜いたんだろう」
そんなふうに、
ほんの少しだけ、自分を責める。
でもさ。
いいんだよ、それで。
毎回ちゃんとできる人なんて、
いないから。
決まった場所に置きたいのは、
きっと――
ちゃんと生きようとしてる証拠だ。
世界を整えたい。
自分を整えたい。
その小さな努力のひとつが、
リモコンの定位置なんだと思う。
だから、
たまに外れてもいい。
今日はちょっと、
世界が散らかっただけ。
また明日、
元に戻せばいい。
……あ。
あった。
ソファの隙間。
なんでこんなところに。
……まあ、いいか。
戻そう。
テーブルの右端。
角から5センチ、縦向き。
ここが、君の居場所だ。
これで安心――
……あれ?
テレビ、つかない。
おかしいな。
さっきまで普通に――
……あ。
リモコン、もうひとつある。
しかも同じやつ。
え、なんで。
……どっちだ?
どっちが本物だ?
試してみる。
こっち、つかない。
じゃあこっち――ついた。
なるほど。
じゃあ、つかない方は何だ。
……予備か。
いや、そんなもの買った覚えはない。
……誰のだ。
……いや、待て。
もっと根本的な問題がある。
じゃあ、さっきまで使ってたのは――どっちだ?
……わからない。
わからないけど、とりあえず。
両方、定位置に置こう。
テーブルの右端。
角から5センチ、縦向き。
……二本並んだ。
完璧な配置だ。
秩序は、守られた。
――何も解決してないけど。
#朗読 #朝活 #朝の生朗読 #テレビ #リモコン