3回目の受験で大学に入ったのに、通うのが楽しくなったのは、渋谷のカフェバーの厨房でした。
1983年、「ソーホーズ・ヴィノ・ロッソ」で始めたアルバイト。ホール係のつもりで入ったのに、最初に任されたのは、山のように積まれた皿洗いでした。洗い場から聞こえる注文の声やフライパンの音に囲まれながら、手が空くとサラダの盛り付けを手伝うようになり、トマトやレタスの置き方を少し変えるだけで皿の印象が変わることに気づきます。やがて盛り付けを任され、限られた時間と材料で工夫する楽しさを覚えていきました。
個性豊かなコックさんたちは、忙しい時間には怒鳴り声を飛ばしながらも、仕事が終わると近くの店で飲み会を開きました。帰宅せず、そのまま誰かの部屋で徹夜麻雀になることもあり、私は負け続けながら、眠気と悔しさで赤くなった目をこすっていました。
初デートでは、従業員伝票でランチを済ませ、少し気取って『フラッシュダンス』へ。映画館を出たあと、何を話せばいいのかわからず、渋谷の人波の中を並んで歩いたことも、今では懐かしい思い出です。
そして、粉雪の舞うスペイン坂で、クリスマスイブの営業に使う米を運んだ夜。傘を差しても肩や髪は濡れ、重い米袋を抱えたまま坂道で何度も足を滑らせました。華やかな街の灯りを横目に、私は息を切らしながら厨房へ戻り、さんざんなクリスマスイブだと思ったものです。
演劇や小説の話をした石田さんと、のちに一緒に劇団を作る仲間たち。
大学より面白かった厨房の日々を、皿の音や油の匂い、少し甘酸っぱい記憶とともに振り返ります。
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