春と修羅
(mental sketch modified)
心象のはひいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲てんごく模様
(正午の管楽くわんがくよりもしげく
琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾つばきし はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(風景はなみだにゆすれ)
砕ける雲の眼路めぢをかぎり
れいろうの天の海には
聖玻璃せいはりの風が行き交ひ
ZYPRESSEN 春のいちれつ
くろぐろと光素エーテルを吸ひ
その暗い脚並からは
天山の雪の稜さへひかるのに
(かげろふの波と白い偏光)
まことのことばはうしなはれ
雲はちぎれてそらをとぶ
ああかがやきの四月の底を
はぎしり燃えてゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(玉髄の雲がながれて
どこで啼くその春の鳥)
日輪青くかげろへば
修羅は樹林に交響し
陥りくらむ天の椀から
黒い木の群落が延び
その枝はかなしくしげり
すべて二重の風景を
喪神の森の梢から
ひらめいてとびたつからす
(気層いよいよすみわたり
ひのきもしんと天に立つころ)
草地の黄金をすぎてくるもの
ことなくひとのかたちのもの
けらをまとひおれを見るその農夫
ほんたうにおれが見えるのか
まばゆい気圏の海のそこに
(かなしみは青々ふかく)
ZYPRESSEN しづかにゆすれ
鳥はまた青ぞらを截る
(まことのことばはここになく
修羅のなみだはつちにふる)
あたらしくそらに息つけば
ほの白く肺はちぢまり
(このからだそらのみぢんにちらばれ)
いてふのこずゑまたひかり
ZYPRESSEN いよいよ黒く
雲の火ばなは降りそそぐ
※(始め二重括弧、1-2-54)一九二二、四、八※(終わり二重括弧、1-2-55)
-----------------------------------------------------
1922年の今日4/8に書かれた賢治さんの心象スケッチです。
この詩を読むといつもベートーヴェンの『テンペスト』が頭を流れるので、それをBGMにして読んでみました。
次回はこの詩の自分なりの考察を配信予定です。
ピアニストの辻井伸行さんのテンペストを聴いた時は涙が出ました(/ _ ; )
よろしければどうぞ!
https://youtube.com/watch?v=24OPuC09fVc&si=xNQUWGfkmlXYKqNj
【BGM】※ライセンスフリー音源
クラシック名曲サウンドライブラリーより
ピアノソナタ第17番ニ短調Op.31-2『テンペスト』第3楽章/ベートーヴェン
http://classical-sound.seesaa.net/
#朗読 #春と修羅 #心象スケッチ #宮沢賢治 #ベートーヴェン #テンペスト #詩朗読 #クラシック音楽 #朗読と音楽