0:00 詩の朗読
05:55 解説
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「輝く腕〜伊邪那美異伝〜」
光っているのはわたしの身体だろうか
醜く腐り 雷を宿していたはずの
わたしの身体が
いま
解き放たれ
力強く脈打ち
冥かったこの地を
明るく照らしている
あのときわたしは疲れていた
あなたのために
この国のために
光 土 風 水
あらゆる神々を産み
そして最後に 火
赤子の火がホトを焼き
気がつくとここにいた
黄 泉 比 良 坂
そのときわたしは飢えていた
自分のために食べたことなどなかったからだ
足もとにあった黒い土塊を拾うと
途端に先が割れて
開きかけた花の蕾が現れた
美しい宝珠
それをわたしは口にした
✢
あなたはわたしに反ってこいと言う
国造りはまだ残っていると
しかし あなたは知らぬ
わたしの死は別天つ神によって
予定されたものだった
魂を反すことは
理(ことわり)を覆すこと
それには代償が
必要であるということを
わたしは黄泉の神に交渉する
代償の代わりに「験し(ためし)」を と
伊邪那美(わたし)の真の姿を見顕わせるなら
彼にはわたしの魂を反すに事足ると
願いは受け容れられ
わたしは彼にいざないの言葉を与える
「わたしを見てはいけない」
禁じられれば破りたくなるもの
果たして彼は
わたしを
見た
✢
あなたの背中が遠ざかっていく
わたしを見るや否や
驚いて逃げ出したのだ
恐怖と嫌悪の眼差しを投げつけー
自分のために生きはじめ
美しく輝くこのわたしが
わ か ら な か っ た の だ
ああ
験しが成らぬときの代償は
あなたの命だったのに
魂を奪おうと黄泉醜女が走り出す
ああ逃げて
そのまま現し世へ逃げきって
愛しい愚かなあなた
冥い夜が明けていく
わたしの光にも気づかず
引き据えた巨きなる岩の向こうから
あなたは遠く言うのだ
「愛しき我が汝妹(なにも)の命」と
わたしのテーゼに対する
アンチテーゼとして
千五百(ちいほ)の産屋を建てるとー
冥界が受け入れられぬ
五百の魂の逝く先も考えずに
愚かで愛しいあなたよ
わたしたちは分かたれた
あなたはこれから独りで
神を生む 人を生む 生ませ続ける
わたしはこの黄泉国にて
役目を終えた命を受け入れ
定めから解き放っていこう
愛しき我が汝夫(なせ)の命よ
わたしの輝く腕(かいな)に
誓う
※ホト…膣のこと
◆第84夜「逃げる男」〜黄泉比良坂の別れ
https://stand.fm/episodes/6640dc217886616dd8bb2c11
◆第90夜「あなにやし」〜国産み神話の始まり
https://stand.fm/episodes/66ca05db03b199762c168c4a
◇ミヤケノリコさんのInstagram
https://www.instagram.com/norinorinorico0528?igsh=YmJvMHJrcHNlNGFk
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