#ショートSTORY
#【彼と私】
#雑談
2026.8.19 水曜日 ☀️
【彼と私】
初めて彼の住むマンションに行ったのは
八年前
終電を逃した流れで「ウチ来る?」の軽い
誘いに 私は 「うん」と答えた
タクシーの中で(化粧ポーチ持ってくれば良かったなぁ〜)なんて思いながら
どんなマンションなんだろう
オートロックでコンシェルジュもいるのかな?
最近 観ていた韓国ドラマのワンシーンを思い浮かべてワクワクしていた
彼が「ここで」とタクシーを止めた場所に立ち周りを見回したが それらしき建物も無い
「この裏なんだけど一通だからさ」と
彼が私と手を繋ぎなから言った
マンションの入り口で彼が言った
「ゴメン先に入ってて 302号室だから」と私の手に鍵を渡した
「うん」と言いながら マンションは
韓国ドラマとは違うんだ なんて呟いて部屋に入った
部屋の中は そこまで整っている感じは
しなかったけれど
一人暮らしにしては 綺麗な方かもなぁ〜
と思いながら ソファに座った
しばらくして彼が戻って来て
コンビニの袋からアイスコーヒーを取り出して
「何で鍵しなかったの?危ないよ」と言った
「あっゴメン」と私は答えたけど
大切に思ってくれている彼の気持ちが
嬉しかった
ポテチを食べながら二人でソファの前の床に座り 彼の好きなSF映画を観て寝た
朝になり 彼から借りたTシャツと短パンを畳んで 静かにマンションを出た
スマホだけを持って歩くのは何とも開放感だし 朝の空気が心地良かった
近くのコンビニで私は プチプラのメイク道具を選びながら
(いつもデパコスを使っている私が… )
苦笑いをした
リップの色を選ぶのも楽しかった
せっかく来たから サンドイッチでも買って帰るか…と 卵サンドを手に取ったが
また棚に戻した
以前 彼が話していた 近所にある喫茶店のモーニングセットを食べてみたいと思ったからだ
部屋に戻ると彼も起きていて
「どこ行ってたのぉ〜?」あくびをしながら聞いて来た
「あっコンビニ 飲むこれ」と言って
カフェラテを渡した
「サンキュ」と言って彼は一瞬飲もうとしけど 「悪ぃ俺ブラックなんだよねいつも」と言った
「あっゴメン知らなかった それなら
前話してくれたモーニング食べに行かない?」
「いいねぇ」と彼も着替えをはじめた
連れて行ってもらった喫茶店は
どこが懐かしい感じのする雰囲気で
落ち着いた
お店の方がオーダーを取りに来て
彼が言った「ここ 30円プラスすると
トーストをチーズトーストにしてくれるんだけど どーする?俺 特別な日は
チーズトーストにしてるんだよね」と言って笑った
「じゃ私もチーズトーストにして下さい」と言った
嬉しかった 彼にとっても今日は特別な日なんだ 運ばれて来た チーズトーストとゆで卵 それにブラックコーヒー
小さな器にレタスとトマトが入っていた
彼は器用にトマトに塩を振っていた
ゆで卵の殻を剥きながら
「トマトには塩なんだね」と私は言った
半分になったチーズトーストが置かれているお皿にフォークでトマトを取り出して置き クラニュー糖をかけた
「えっ えーー?初めて見た
トマトにお砂糖の人」と言って彼は笑った
あの頃は お互いの違いをお互いに認めていた 一緒に笑って それは さほど大きな事ても無いと思っていた
まもなく一緒に暮らし始めて
私は この上無い多幸感で毎日を過ごしていた
だけど コーヒーやトマトに似たような
どーでもいい違いが 気になり出した
それは本当にどーでもいい事だった
多分 もっと深いところで彼に対する不満があったのかもしれない
だけどそれは口にしたくない
出会った頃はもっと優しい気持ちでいられたのに…
それはお互いに感じていたのかもしれない
確信したのは私のお誕生日の日だった
お休み日と重なって
二人でモーニングセットを食べに行った時の事だ
彼はチーズトーストをオーダーしなかった
(私のお誕生日はもう彼の中で特別な日では無いのだ)
そう思ったらいつものようにトマトに塩を振る彼をみて (何か違う)と感じてしまったのだ
「今日は 友達と約束があるから
夜 一緒にケーキでも食べよう」と言った彼の言葉も (何で今日?)
言えない言葉を飲み込んだ
夜になり いちごのホールケーキを片手に帰って来た彼に
私は言った
「別れましょ」
驚いた彼が言った
「何で?どーして?」
私は答えた
「トマトにはお砂糖だから」
あれから何年経っても
お誕生日の朝は チーズトーストと
砂糖をかけたトマトをほおばる私なのだ。