本宮三香(もとみやさんこう)作畠山神城訳
荒城の月
春夜 高楼 花月の宴
月は盃を照らして 影おぼろにゆらぐ
老松は 枝を交えて 深き緑に
当時の歓楽 いずれの辺ぞ
秋陣営に満ちて 霜いよいよ白く
数行の雁(かり)は 雲のかなたに没す
想い見る 勇士の 城門にたむろし
月光 剣に映じて 皎皎(こうこう)と 輝くを
年をめぐりて なお変わらざる 明月の
玲瓏(れいろう) 鏡の如く 誰が為にか円し
葛らは垣に絡みて 栄衰を感じ
松吹く風は咽(むせ)ぶが如く
翠(みどり)の枝をゆるがす
苔むせる甍(いらか)は何を語るらむ
往古(むかし)を知れる月にむかって
天上の名月は とこしなえに つくるなきも
百代の光陰 何ぞ慌ただしき
君見ずや 春秋の ゆいてまた来るとき
荒城を 照らし出(い)だす 一輪の月