太宰治
おさん
毎日、毎日、暑い日が続きました。私は、暑さと、それから心配のために、食べものが喉のどをとおらぬ思いで、頬ほおの骨が目立って来て、赤ん坊にあげるおっぱいの出もほそくなり、夫も、食しょくがちっともすすまぬ様子で、眼が落ちくぼんで、ぎらぎらおそろしく光って、或ある時、ふふんとご自分をあざけり笑うような笑い方をして、
「いっそ発狂しちゃったら、気が楽だ。」
と言いました。
「あたしも、そうよ。」
「正しいひとは、苦しい筈はずが無い。つくづく僕は感心する事があるんだ。どうして、君たちは、そんなにまじめで、まっとうなんだろうね。世の中を立派に生きとおすように生れついた人と、そうでない人と、はじめからはっきり区別がついているんじゃないかしら。」
「いいえ、鈍感なんですのよ、あたしなんかは。ただ、……」
「ただ?」
夫は、本当に狂ったひとのような、へんな目つきで私の顔を見ました。私は口ごもり、ああ、言えない、具体的な事は、おそろしくて、何も言えない。
「ただね、あなたがお苦しそうだと、あたしも苦しいの。」
「なんだ、つまらない。」
と、夫は、ほっとしたように微笑ほほえんでそう言いました。
その時、ふっと私は、久方振ひさかたぶりで、涼すずしい幸福感を味わいました。(そうなんだ、夫の気持を楽にしてあげたら、私の気持も楽になるんだ。道徳も何もありやしない、気持が楽になれば、それでいいんだ。)
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「文学の闇と光が交錯する、太宰治の世界へようこそ。」
ここでは、太宰治の名作を厳選し、彼の言葉の深淵と情熱を朗読を通してお届けいたします。
単なる文章の読み上げではなく、太宰治が紡いだ独特な世界観一純情な苦悩と、時にほろ苦く、皮肉すら感じさせる美しさ一を、現代に蘇らせる試みです。
あなたの心の奥深くに宿る感情に触れながら、ともに文学の旅を歩んでみませんか?
この活動を通じ、朗読とともに太宰治の魅力を伝え、あなたに安らぎと共感をお届けしたいと願っています。ぜひ、お気軽にフォロー、コメント、リクエストそして感想をお寄せください。」
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