火高伝説
火上山の
畦道や林
ところかまわず
吹き上げてしまう
彼岸花
鶏頭の緋色
わたくしの魂
あの方と婚(まぐわい)した夜
待ちわびて待ちかねて ついに
拷衾(たくぶすまー真っ白な夜具)に月のものを散らしてしまったように
あの方をつなぎとめたくて
草薙の霊剣をもぎとったのは わたくし
そのために能煩野(のぼのー三重県鈴鹿郡)の山里で
あの方は神去って(かみさってー高貴な人が死ぬこと)しまわれた
だから
死ねない
白鳥になって天翔(あまが)けたあの方とはうらはらに
いくたびも いくたびも
燃えさかる炎となって
火上山を狂わせたのも
わたくし
あのとき 俺が
自堕落な兄を討ったことが
よほど父の心に触ったのか
熊曽(熊本や鹿児島のあたり) 出雲
尾張 相模 甲斐 信濃
息つく間もない遠征の勅詔(みことのり)
みちみち 荒ぶる蝦夷(えみしーアイヌの 祖先#)どもや
山の神 河の神 穴戸(あなとー海峡)の 神々さえ言向けた(言葉によって服従させた)のは
一度でいい
父に 心から
誉め言葉を、いただきたかっただけだ
それなのに
愛しい嬢子(おとめ)の床の辺に
俺は草薙の剣を置き去りにした
空飛ぶように勝ちどきをあげてきた昨日までの
傲慢の証として
いま 足萎え曲がり
異郷の地に行き倒れて
父よ 天皇(すめらみこと)よ
どれほど帰りたかったことか
倭は 国のまほろば
たたなづく 青垣
山隠(ごも)れる 倭し 美(うるわ)し
あれから
千八百年の時がたって
それでも鎮まらない
わたくしの魂は
火高火上山のふもと
火上姉子神社の森の
奥深い祠(ほこら)に閉ざされています
草薙の剣は永遠のかたしろ
抱きしめて
抱きしめて
鋭い両刃(もろは)に血しぶきをあげながら
いつまでも
これからも
生まれていく
やまとたけるのみことを
追いつづけてゆきたい
わたくしは
み や ず ひ め
#氷上姉子神社 #倭建命 #宮簀媛 #熱田神宮
⭐️音楽…「風響く」(グラバア俊子『すいれんの国』)