1.Bowlbyによる「内的作業モデル」の概略
・Bowlby (1969;1973;1980)
・人は養育者との緊密な愛着関係の中で“自分が安全であるという感覚”を絶えず得ようとする傾向こそが人間という存在の本質であり、この安全の感覚に支えられてはじめて健常に心身が発達する
・“自分は安全であるという感覚”を親との関係で持つことが出来なかった子どもは、一時的な認知・情緒的葛藤だけでなく、より長期にわたる対人的不適応や、自分が親になった時、 わが子に対する虐待などの障害を引きおこす背景となり、世代を通して愛着関係が連鎖していく。
・自分が養育者になった時にも子どもとの関係に影響する。‐親の幼児期の愛着経験が、親になった際の養育行動の質を決める
・子どもは、親自身の過去とほぼ等質の愛着スタイルを身に付ける
2.人は親に似る?
・子育て中の親は、今の自分、自己を振り返る余裕が日々の生活の中で、殆どなく、知らず知らずのうちに、子どもにかける言葉やしぐさ、表情などが自分の親から受けた被養育経験と似たスタイルになってきている
・人は愛着対象と自身の関係スタイルを基盤に、新たに遭遇する他者の振る舞いを予測・解釈し、自分自身の行動プランニングを行う。
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愛着対象と自身との関係に近似したスタイルが再生される
【その内的作業モデルを強固にしていく】(遠藤1992,1993)
3.一度決まったアタッチメントスタイルは変えられないのか!?『内的作業モデルの欠点』
・内的作業モデルでは被養育経験の果たす役割りだけが強調されて、他の要因の意味がほとんど問題にされなかった。
・人間は生まれ持った特性と育った環境に大きい影響を受け、ほぼ幼少期に自己を築くといわれているが成長の中で多くの人と出会い、 結婚、出産などいろいろな経験を重ね、自己を振り返ることで、次の世代にネガティブな要因を伝える可能性はそう大きくないかもしれない。
・現在の母親自身と子どもとの相互関係、現在の自分の母親との相互関係の中で、ダイナミズムな作用が働くことで、被養育経験での自分の母親への思いを肯定的なものに変えていくことも不可能ではない。
・自己のありのままの実態をしみじみと振り返る『内省的自己(reflective self)』が、精神病理の世代間伝達を防ぐ可能性をもつ(Fonagy,P 1991)
・人生の中で親以外との支持的で暖かい関係を経験することや初期のモデルとは根本的に異なる際立った情緒的体験をすること等が大切(Main et al 1985、Fraiberg et al.1975)
・思春期、青年期の形成的思考の発達が自己モデルの再構成の機会を与える(Main et al. 1985,Ricks 1985)
・乳幼児期の親との実体験だけでなく、親が他の子どもに接する場面を見たり、 弟妹などの年少の子どもの世話をしたりすることが自己モデルの構造に関与すると仮定(Winnicott 1968、Fogel et al 1986,小嶋 1989)
・たとえネガティブな被養育経験をして、不安定で自分自身に自信が持てなくても、自分の母親以外のさまざまな対人関係を経験し、成長していく中で、ネガティブな自己像、自己モデルを、受容的で肯定的な安定した自己モデルに変容できる。
→ 愛着に関する内的作業モデルは、単に過去の被養育経験の写しではない不連続性の可能性
・過去に何があったかということの記憶(内的作業モデルの内容的側面:Crittended,1990)よりも、それをどう解釈し、統合しているかという内的表象モデルの構造的整合一貫性が現在の関係性を規定する(Main,1991)
【参考】
田邊・米澤(2009)母親の子育て観からみた母子の愛着形成と世代間伝達―母親像に着目した子育て支援への提案,和歌山大学教育実践総合センター紀要 №19
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金曜日イェーイ
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