「古今和歌集 仮名序」/紀貫之
やまと歌は、人の心を種として、
よろづの言の葉とぞなれりける。
世の中にある人、事業、繁きものなれば、
心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、
言ひ出せるなり。
花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声を聞けば、
生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける。
力をも入れずして天地を動かし、
目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、
男女の仲をも和らげ、
猛き武士の心をも慰むるは、
歌なり。
この歌、天地の開け始まりける時より出で来にけり。
しかあれども、世に伝はることは、
ひさかたの天にしては下照姫に始まり、
あらかねの地にしては素盞嗚尊よりぞ起こりける。
ちはやぶる神世には、歌の文字も定まらず、
素直にして、
事の心分きがたかりけらし。
人の世となりて、素盞嗚尊よりぞ、
三十文字あまり一文字は詠みける。
かくてぞ花をめで、鳥をうらやみ、
霞をあはれび、露を悲しぶ心・言葉多く、
さまざまになりにける。
遠き所も、出で立つ足下より始まりて年月を渡り、
高き山も、麓の塵泥よりなりて
天雲棚引くまで生ひ上れるごとくに、
この歌もかくのごとくなるべし。
🌿星読み夢解き🌓よもやま話
「やまとうたは人の心を種として よろずの言の葉とぞ」が言いたかっただけ話
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