エビだけが、名前を持たない
外食で出てくるエビは、たいてい「エビ」としか呼ばれない。
マグロなら、クロマグロなのかキハダなのか、みんな気にする。
イカだって、スルメイカなのかアオリイカなのかコウイカなのか、そこはちゃんと分ける。
イカで一括りにするのは雑すぎる、という感覚が共有されている。
それなのに、エビだけが「エビ」のまま流通している。
中身はむちゃくちゃたくさんあるのに、誰もどのエビなのかを言わない。
自分で料理する人はある程度わかっていると思うけれど、外食の現場ではほとんど言及されない。
情報発信をしていない人は、それでいい。
ただ、発信する側がエビとかイカとかマグロとかを十把一絡げに語るのは、さすがに雑だと思う。
名前がわかると、味の理由もわかるようになる。
逆に言えば、名前で呼ばれないものは、いくらでもすり替えられるということでもある。
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クルマエビは王様、けれど滅多に会えない
エビの名前として一番有名なのはクルマエビだろう。
ただ、使っている店はなかなかない。
というより、かなり高い店しか使えない。
エビの中では王様レベルだ。
天然もあるし養殖もあるが、養殖だから美味しくないということはない。
むしろ形が揃うので、天ぷら店は養殖のほうがいい。
天然は大きさが不揃いで扱いにくい。
天ぷらに向くのは大きすぎないサイズだし、寿司の握りも大きすぎるとバランスが悪く、身が硬くなる。
だから、程よい大きさで、餌と環境のいい養殖のクルマエビ。
これを使えるのは、そこそこ高級な寿司店か天ぷら店に限られる。
回転寿司ではありえないし、定食系の天ぷらにもまずない。
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ブラックタイガーとバナメイの間にあるもの
では、そういう店は何を使っているのか。
多くはウシエビかバナメイエビだ。
どちらもクルマエビの仲間なので、結構おいしい。
ウシエビは商品名でブラックタイガーと呼ばれることが多く、ランクとしてはバナメイより一つ上になる。
とはいえバナメイも、クルマエビの仲間である以上おいしい。
同じ仲間にクマエビもいる。
足が赤いので「アシアカ」と呼ばれる高級エビで、店で出るとしたら「今日はアシアカがありますよ」という扱いになるくらいの存在だ。
僕もスーパーで見かけたら買って食べる。
もちろん、クルマエビの仲間以外にもエビはいる。
一般に甘エビと呼ばれるホッコクアカエビもそうだし、回転寿司で赤エビとして出てくるのはたいていアルゼンチンアカエビだ。
ただ今日は、クルマエビ系の話に絞る。
ブラックタイガーは物自体がそれなりに高いので、外れが少ない。
一番差が出るのがバナメイだ。
ムチッ、ブチッと噛み切れるくらい筋肉質で、噛み締めると中からエビの風味がグワッと出てくるものがある一方、エビの香りも味わいもまるでなく、プリッとした食感だけが残る、石油製品でも食べているようなものもある。
安い定食についてくるエビフライの、あの「エビの形をした何か」だ。
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味が消える理由は、種類ではない
差を生むのは、まず保水剤だ。
リン酸塩やpH調整剤に漬けて水を吸わせる。
プリプリした食感だけは残るが、味は限りなく薄まり、加熱するとよくわからないものになる。
次に冷凍。
水は凍ると体積が一割ほど増えるので、細胞の中の水が膨らんで組織を壊す。
すると解凍時にドリップとして全部出ていく。
業務用の急速冷凍機は、膨らむより先に一気に凍らせるので、比較的ドリップが出ない。
冷凍食品を一度解凍したら再冷凍してはいけない、と言われるのはこのためだ。
家庭用の冷凍庫は保存はできても冷凍はできない。
タコのように家庭でも凍らせられる食材もあるが、エビは業務用でないと上手に凍らせられない部類に入る。
水を吸わせて味を薄め、その上で下手に凍らせ、解凍にも失敗する。
この三つが重なれば、残るのは微妙な食感だけだ。エビの形をした何か、と言いたくもなる。
養殖環境も出る。エビは養殖の状況がそのまま味に出るので、いい環境ならおいしく、そうでなければ臭みが出やすい。
輸送も同じで、甲殻類は死んだ瞬間から匂いが立ち始める。
生きたまま運び、生きた状態で締めて料理する。活け締めを使うと断然美味しい。
だからバナメイが悪いのではない。
ブラックタイガーにもおいしいものからそうでないものまである。
クルマエビだって、生きていたやつと死んでいたやつでは味が違う。
どの種類かと、どう扱われたか。
この二つを気にして食べると、いい学びになると思う。
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瀬戸内の、名もなきエビたち
瀬戸内で獲れるのは、サルエビやヨシエビ、シラサエビと呼ばれるあたりだ。
クルマエビの仲間に比べると食感はフニャッとしていて、味も濃くない。
でも、それを上手に使ったのがかっぱえびせんだ。
もともと広島の宇品にあった松尾糧食工業所という会社が作っていたエビあられがルーツになっている。
尾道の稲荷寿司や巻き寿司に入るエビ粉も、名古屋のえびせんべいも、夏になると湧くほど獲れたこれらのエビが使われてきた。
最近は獲れなくなってきたけれど。
岡山の日生も同じで、本当は冬がカキオコ、夏はエビのお好み焼きだった。
地元のエビをちまちまと剥いて、たくさん入れてくれる。
夏に食べに行くと、どの店もそれを出してくれて、これはカキオコより絶対いいじゃんと思ったものだ。
今でもやっているんだろうか。
カキオコが有名になったせいで、夏でも牡蠣を出し続けているのだとしたら、それは少し罪深い。
夏はエビのほうがうまいに決まっているのに。
というわけで、今日はエビの話をしてみました。