「それじゃあダメですよ」
かつての白神さんは、間違いなくそう言うタイプの人間でした。
企画のプロとして、良かれと思ってアドバイスをする。ダメ出しをする。それが仕事だと信じていました。
でも、ある日を境に、彼は「教えること」をやめました。
代わりに始めたのは、ただ問いかけること。「どうなったらいいと思いますか?」「なぜそれをしたいんですか?」――それだけです。
すると、不思議なことが起きました。相手が、勝手に前に進み始めたのです。
アドバイスをやめた企画マンは、なぜチームを動かせるようになったのか。
今回は、そんな白神さんの人生を追いかけます。
1.役職定年まで、あと1年
53歳で役職を離れる。ソニーにはそういうルールがあった。
その現実まであと1年と迫ったお正月、彼は「何かやらなきゃ」という焦りだけを抱えて、創業支援セミナーの扉を叩く。
半分本気、半分好奇心。
そこで彼は気づく。自分には「企画を立てる力」がある、と。
企業のコンサルとして、若手起業家たちに企画書の作り方を教え、市場性を調べ、コンセプトを言語化する。
「これ絶対コンサルできますよ」と、何人もの人に太鼓判を押された。
順調に見えた。
2.アドバイスは動かなかった
「いい企画ですね」「さすがですね」
アドバイスした企画は、いつも感心された。
けれど次に会うと、何も進んでいない。
関係性はギクシャクし、空気は硬くなっていく。
——なんか、違う。合わない。
役職定年を目前に控え、積み上げてきたはずのものが、音を立てて崩れていくような感覚。
彼はそれを「これが自分の天気(転機)になった」と振り返る。
3.そのとき、ある一言が刺さった
「白神君、そういう活動したいんだったら絶対コーチング勉強した方がいいですよ」
クライアントの役員から放たれた、ほとんど"ダメ出し"のような一言だった。
自分はこんなにも喋るのが好きで、教えたがりで——
コーチには一番向いていないタイプだと思っていた。
それでも、その晩、彼は自宅で検索する。「コーチング 横浜」。
そして、銀座コーチングスクール横浜校の無料体験講座に、迷わず申し込んだ。
4.コーチング体験講座で、人生は静かに反転する
講師はただ、こう尋ねただけだった。
「白神さんは、どうしたらいいと思いますか?」
アドバイスもされない。教えられもしない。ただ、聞かれる。
答えているうちに、彼の中で何かが起こり始める。
「あ、自分はこうしたかったんだ」 「あ、これでよかったんだ」
これこそが、心理学でいう"オートクライン効果"——自分の言葉を自分の耳で聞くことで、自分自身が気づいていく現象。
彼はその瞬間、確信する。
5.「これが、コーチングなのか」
そしてもう一つ、腑に落ちたことがあった。
ソニー時代、大金を払って外部コンサルが立てた企画が、結局あまり進まなかった光景を、彼は何度も見てきていたのだ。
企画を"立ててあげる"仕事より、企画を"引き出す"仕事の方が——自分にも、相手にも効く。
6.ソニー、コンサル、そしてコーチング
一見バラバラに見えるこの3つの経験は、実は一本の線でつながっている。
「人に言われてやるのがダメ」で、「自分で決めてやらないと気が済まない」——そう語る彼の「新しいものを求め続ける価値観」は、ソニーという自由な会社でこそ育まれ、企画コンサルという回り道を経て、コーチングという答えにたどり着いた。
遠回りに見えたものが、実はいちばんの近道だった。そこから彼は、大胆な決断をします。アドバイスすることを、やめたのです。代わりに、ひたすら問いかけました。「どうなったらいいと思いますか?」 「なぜそれをしたいんですか?」「この会社は、どうなっていきたいんですか?」すると――相手が、勝手に前に進み始めたのです。
モチベーションが上がり、関係性が良くなり、白神さんが企画を考える必要すらなくなっていく。この体験が、彼の人生を大きく方向づけることになります。
8.ベテラン世代の経験は、宝物である
インタビューの終盤、白神さんはある熱い思いを語ります。人生100年時代。
役職定年、そして65歳での定年――まだまだ働きたい、社会の役に立ちたいと願うベテラン世代がたくさんいる。彼らが積み重ねてきた成功も失敗も、苦労した経験も、すべてが日本にとっての宝だ。もしその経験を、初めての挑戦に踏み出す若手やプロジェクトチームに、「アドバイス」ではなく「コーチング」という形で還元できたら――若手はどんどん前に進み、ベテランは感謝される存在になり、やる気を取り戻す。
そんな好循環が生まれたら、企業も、社会も、もっと良くなっていくのではないか。大きなことは言うつもりはない、と前置きしながらも、白神さんはこの思いを本気で語ってくれました。
白神さんの人生に、耳を傾けてみませんか