柿の木に登り、川に飛び込んだ少女
説子さんは東京生まれ。
子どもの頃から柿の木によじ登り、近くの川では男の子たちに混じって崖から飛び込んでいたそうです。
そんな活発な少女だった説子さんは、中学時代まで数学が得意で、
「自分は絶対に理系だ」
と思っていました。
ところが、理数系で有名な高専に進学すると、その自信が揺らぎます。
周囲には、自分以上に理系が得意な人たちがたくさんいる。実験も夜8時まで続く。
しかも、周りの学生たちは実験が大好き。
「昨日、お風呂でこんなことを思いついた。今日試してみたい」
そんな話を楽しそうにしている。
一方、説子さんは、
「仕事が終わってラッキー」
と思っていた。
そこで初めて、
「私って、理系が好きなわけじゃないのかもしれない」
と気づいたのです。
「辞めます」から始まったキャリアチェンジ
高専卒業後、大学進学ではなく就職を選び、コニカミノルタへ。
ところが配属されたのは、なんと研究開発部門でした。
そして3年ほど働いた頃、
「この仕事、好きじゃないかもしれない」
「自分の良さが発揮できていないかもしれない」
という思いが強くなり、上司に、
「辞めます」
と伝えます。
ところが上司は、
「辞めなくていいんじゃない?」
と返しました。
さらに、
「せっかく大きな会社に入ったんだから、転職したと思って、社内で異動してみたら?」
と提案してくれたのです。
そして説子さんは、営業本部のマーケティング部門へ。
研究開発とは180度違う仕事でした。
すると、
「なんか、自分に合う」
と感じた。
仕事が楽しくなっていったのです。
同じ会社、同じ自分でも、場所を変えるだけで仕事への感覚が変わる。
この経験は、
「仕事が嫌いなのか、それとも今の場所が合っていないのか」
を考えるきっかけになりました。
しかも、この異動を実現してくれたのは上司でした。
説子さんの人生の転機には、いつも「味方」がいたのです。
また「つまらない」と感じた
マーケティング部門で10年ほど活躍した説子さん。
しかし、フィルム・カメラ事業の縮小に伴い、別部署へ異動することになります。
会社は説子さんのためにポストを用意してくれました。
それでも、
「つまらないな」
と感じた。
そこで今度は、理学療法士・作業療法士という資格に興味を持ち、仕事をしながら夜間の専門学校へ。
3年間学び、実習直前まで進みます。
ところが、
「これ、本当に私がやりたかったことなのかな?」
と立ち止まります。
そんな時、以前の先輩から広報部門の仕事を紹介されました。
「1年間だけなら」と始めた広報の仕事が、驚くほど自分に合っていた。
結局、3年間通った専門学校を残り1年で辞め、広報の道を選びます。
一見すると「また辞めた」と見えるかもしれません。
でも、説子さんにとっては、
辞めることが目的ではなく、自分に合う場所を探すことが目的だった。
そんな人生だったのだと思います。
そして、経営統合という大変革へ
2003年、広報部門に異動した説子さんを待っていたのは、コニカとミノルタの経営統合でした。
異動したばかりなのに、会社を揺るがす大ニュースの渦中へ。
社内には、
「なぜこんなことをするんだ」
「これからどうなるんだ」
という不安や不満が広がります。
ところが説子さんは、この状況を、
「めちゃくちゃ楽しかった」
と振り返ります。
経営陣から直接話を聞くことで、決断の背景や意図を理解できたからです。
一方、現場の社員は十分な情報がなく、ネガティブな感情を抱えている。
そこで説子さんは、こう感じました。
「すごい人たちがたくさんいるのに、その人たちがネガティブな思いをしているのが、もったいない」
この「もったいない」という感覚が、後の説子さんの原動力になっていきます。
人の能力やエネルギーが、怒りや不安に使われてしまっている。
それを、もっと前向きな方向へ変えたい。
この思いが、後の「組織変革」の仕事へとつながっていくのです。
「辞めたい」は逃げじゃない
説子さんの人生から、私が強く感じたことがあります。
それは、
「辞めたい=逃げ」ではない
ということ。
もしかすると、「辞めたい」という気持ちは、
「今の場所では、自分の力が発揮できていない」
というサインなのかもしれません。
説子さんは研究開発を辞め、マーケティングへ。
そして資格の道も、違うと思えば手放し、広報へ進みました。
その旅の途中には、必ず誰かがいました。
「辞めなくていい。異動してみたら?」
そう言ってくれた上司。
新しい仕事へ声をかけてくれた先輩。
そして、決断を見守ってくれた家族。
もし今、
「仕事を辞めたい」
「このままでいいのかな」
と悩んでいる人がいたら、説子さんの言葉を届けたいと思います。
「あなたの力が発揮できる、楽しい場所は絶対にあります。腐らずに、その場所を探してください。周りには、そこに行くために助けてくれる人が必ずいますよ」
辞める以外にも、異動する、相談する、新しいことを試す。
人生には、いろいろな選択肢があります。
そして、最後に一つ。
説子さんを動かしてきたのは、
「すごい人たちがネガティブな感情にエネルギーを使っているなんてもったいない」
という思いでした。
では、あなたはどうでしょうか?
あなたが「もったいない」と感じるものは、何ですか?
もしかすると、その「もったいない」の中に、あなた自身の強みや、これから進みたい方向が隠れているのかもしれません。