1.ジェームズが取りあげた神秘体験のエピソード
・19世紀の英国詩人A.テニソンによる書簡から
「…突然、まるで個性意識の力がなくなってしまったかのように、個性そのものが溶け去って果てしのない存在の中に消え去っていくが、これが決して混乱した状態ではなくて、 時にはっきりした状態、この上なく確実な状態で、まったく言語を絶している」
・19世紀の英国の詩人、J.A. シモンズ
「いやおうなくの気分は私の心と意思を占領しいろいろな感覚が、急激に交替しながらひとしきり続き、まるで永遠にと思われるほど長く続き消えていく。」
「説明できるような言葉を見つけることができない。それは空間と時間と感覚とれる経験、それから私たちが好んで私たちの自己と呼んでいるものの性質が速やかに消えてゆく」
「正常な意識の条件が引き去られてゆくのに比例して、下層にある意識、あるいは本質的な意識の感じが強度を加えてきた。 最後には、純粋な 、 絶対的な、 抽象的な自己のほかなにも残らなかった。」
(クロロホルム使用)
「…私は死に近づいていると思った。そのとき突然、私は神に気がついた。だんだん麻酔薬の影響からさめると、この世に対する関係がもどって、神に対する私の関係の新しい感じは薄れはじめた。」その後医者に『ひど過ぎる、ひど過ぎる、ひど過ぎる』 と叫んだ。
・J. トレヴォーアの自叙伝(薬物とは無関係な日常の生活の中で、突如として神秘的な状態 を繰り返し体験)
ある晴れやかな日曜日の朝、 家族とともに町の礼拝堂に向かうが、 丘の上の陽光があまりにもすばらしかったので、 礼拝堂には行かず、 家族と離れて、 独り丘の上に上ることにする。 そしてそこから帰ろうとしたときに 「神秘的な状態」を体験する。
「帰途、 突然、なんの前触れもなしに、私は自分が天国にいるのを感じた―ある温かい光を浴びているという感じを伴った、筆紙に尽くしがたいほどに心の平安と歓びと確信」「外の状態が内的効果を引き起こし」「光明の真中にいて、肉体を超越してしまったような感じ」このような経験を何度もしていて「霊的生命は体験者にとって現実的で、客観的な現実の生活と緊密に接触させても、 決して失われずに残る。夢は醒めると、それが夢に過ぎなかったことを知るのでこのテストをパスしない。」
・19世紀のカナダの精神科医R.M.バックによる「宇宙的意識」
①「宇宙の生命と秩序についての意識であり宇宙の意識と並行して或る知的な啓蒙が生じる…
②ある晩、 大都市で友人と詩や哲学を論じ合う時間を過ごした後、 自宅に戻る時の心の状態は、平静で穏やかで、 ほとんど 「受動的な享受の状態」にあった…
2.ジェイムズの論点
・意識現象と脳活動との関係をめぐる議論には立ち入らず、 意識活動を、 その体験を通じて報告された証言を、 経験的に取り扱いうる所与の 「心的事実」として分析し考察を行い、 体験された内容の「質」に関心を持つ。
「私たちが合理的意識と呼んでいる意識、つまり私たちの正常な、目覚めているときの意識というものは、意識の一特殊型にすぎないのであって、この意識のまわりをぐるっととりまき、きわめて薄い膜でそれと隔てられて、それとはまったく違った潜在的ないろいろな形態の意識がある、という結論である。私たちはこのような形態の意識が存在することに気づかずに生涯を送ることもあろう。しかし必要な刺激を与えると、一瞬にしてそういう形態の意識がまったく完全な姿で現れてくる。」のように、宗教的、 神秘的な体験が、 特定の薬物が脳へと及ぼす幻覚作用によって生み出されるのではなく、 そのような刺激を通じて、時にわれわれの「特定の意識の状態」へと道を拓く契機となると考えた。
例)中南米地域のシャーマンなどが、トランス状態への導入の際に、 幻覚作用をもった植物を使用する事例
3.臨死体験の神秘的状態4指標+8つの体験的特徴
ジェイムズによる臨死体験における「神秘的な状態」の4指標が見て取れる
Ⅰ. 言い表わし難さ(Ineffability)
Ⅱ. 認識的性質(Noetic first-rate)
Ⅲ. 暫時性(Transiency)、
Ⅳ. 受動性 (Passivity)
加えて
a. 意識の明晰性
日常的な意識下にある時よりも、感覚 (五感) が高められ、より明晰な現実感覚( reality) があり、夢と違ってその体験の記憶が鮮明なまま失われることなく保持される。
b. 実在との一体感
神や宇宙意識、究極的実在などとの一体感、融合感。
c. 全知感
あらゆる知識、知恵、啓示などを得たという経験。
d. 不滅感
死を超越した自己の不滅の確信、永遠の生命、時間感覚の消滅。
e. 光体験
光や光明との出遭い、包含感覚など。
f. 愛
愛、 愛情に包まれる。究極の本質と捉える感覚。
g. 自己変容、 人格変容
しばしばSpiritual Transformative Experience (STE) とも呼ばれる。
h. 歓喜、 恍惚感
日常の生の体験領域では得ることのできない超越的な感覚。この地上の生へ戻ることを拒否したくなるほど強く惹かれる感情
の8つの傾向が見られる
【参考】
丹羽(2020)死生観の現在―臨死体験現象への宗教学的接近, 東京外国語大学論集 第100号
【ベストコメント】
福山の真似が面白くて内容がぜんぜん入ってきませんでした笑
#臨死体験 #心理学 #ウィリアム・ジェイムズ #公認心理師 #臨床心理士 #福山雅治 #神秘的