1.医療の分野でスピリチュアリティへの注目が集まった時期
・1998年 世界保健機構の理事会で「完全な肉体的、精神的、スピリチュアル及び社会的福祉のダイナミックな状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」
①身体的
②心理的
③社会的
④スピリチュアルな状態
の4つが掲げられたこと。
・緩和ケアにおける「スピリチュアルケア」は、 必ずしも特定の信仰を持っている人に対して宗教者が行うケアだけではなく、死を前にして現れる、人間の根本的な深い苦悩を理解し、ケアしようとすること。
・心理的苦悩や社会的苦悩には還元できない苦悩を「スピリチュアルペイン」と呼び、この「スピリチュアルペイン」に対するケアを「スピリチュアルケア」とされた。
2.1998年以前
・終末期のがん患者のケアを行う緩和ケアの領域で、死を間近にした患者の身体的、心理的、社会的苦痛、スピリチュアルな側面に関するケアの重要性は意識されていた
・日本では「スピリチュアリティ」という考え方に馴染みがなく「スピリチュアルケア」 は、宗教者の行う宗教的ケアのことであるとみなされがちで、一般の医療者には「わかりにくい」 「宗教者、心理学等の専門家の役割で、自分にはできない」という印象を持つ人も多かった。
3.緩和ケアの領域のスタンダード
・村田久行による、現象学、 実存哲学の知見を生かしスピリチュアルペインについて概念化、整理したもの。
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「人間を時間存在、関係存在、自律存在として捉え、そうした存在である人間が、死を間近 にすると、『自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛』=スピリチュアルペインを持つようになる」(村田 2012)。
・過去と将来に支えられて現在が存在する、という「時間存在」である人間は、末期のガンであることを告げられ将来を失うことにより、世界と自己が「無意味、無目的、不条理」と感じられるようになる。
・自己の存在と意味が他者との関係性によってなりたっている「関係存在」である人間に とって、死とは他者との断絶を意味するものであり、そこから「孤独や空虚さ」を感じるようになる。
・自分のことを自分で行い、自分自身をコントロールする「自立や生産性」に価値をおく自律存在である人間は、 末期の病によって衰え、自分のことが自分でできなくなってしまうことにより自分が他人の「負担や迷惑に なっている」「無価値で無意味なもの」と感じる(村田 2012)。
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これに対してスピリチュアルケアが必要に
スピリチュアルペインをアセスメント…関係に基づき、関係の力で患者・クライアントの主観的な苦しみを和らげ、軽くし、なくする援助
→ 医療者にとって目の前にいる患者が、どのような苦悩を抱えているかを理解し整理するのに役立つプラクティカルなものにした。
4.村田の理論によるスピリチュアルペインやケアの難しさ
・医療(キュア)−疾病(欠如)モデルに基づいてスピリチュアルケアを理解しようしているために、理解や実践において難しさを生み出している点も。
・スピリチュアルペイン「アセスメント」し、それを軽減、除去するという医療−対象知的な二段階で捉えられることが多いため、物理的存在としての「身体的苦痛」と似たようなものとして捉え、「スピリチュアルペインがない人はいるのか」「スピリチュアルペインをなくするためにはどうしたらいいのか」 という疑問にとらわれる者もいる。(スピリチュアルペインは関係性のなかにある人間の主観への表れ)
・対象知的な手法であるパターン化がなされており、患者の苦悩を形式的に理解する場合は、自分の人生にもつながる体験として苦悩を理解することが難しくなり「やはりスピリチュアルペインを理解することは難しい」「死を間近にした人にしかスピリチュアルペイン はないのではないか=死が間近にない自分には患者のスピリチュアルペインは理解できないのではないか」と感じる者がいる。
・スピリチュアルペインを感じる状態は「通常の健康、健常なあるべき状態に比べてあるものがない、そこから生じるマイナスの状態」(疾病―欠如モデル)で捉えられているため、苦悩を精神的成長の機会として捉えるという視点が弱く、「スピリチュアルケア=成長を支える」という視点がポジティブに出てきにくい。
→ 現場の看護師にはどこにどう働きかけることがスピリチュアルケアなのか、が見出せず「スピリチュアルケアは何をすることなのか」「ただ患者さんの話を聞き寄り添っているだけでいいのか」などの戸惑いを抱く人もいる。
【参考】
高橋(2017)哲学対話とスピリチュアルケア, Osaka University Knowledge Archive
【ベストコメント】
確かに…師の先に、自己同一性を見出すのは非常に困難
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