なべとびすこ『デデバグ』
学年で最初にメガネをかけた日に用意されてた見えないレール 19
爆弾を作ってたらしい先輩の顔を全く思い出せない 30
絶対に届かないけど絶対に届かないけど三日月を蹴る 66
↪︎僕よりも僕のために怒ってくれて花束だった 花束だったな、 76
地下鉄の車体が汚れていることを見たあと座る椅子やわらかい 81
⚫︎「わたしの元気を奪った」
ゴミ袋ちょっと濡れてる 枯れた日と捨てた日どっちが命日だろう 30
死ぬまでに言わない話ばっかあるト書きだらけのあとがきだろう 38
もし空に生まれ変わればやっぱ虹だすのが夢になるんでしょうか 56
虹なんてたぶん出せずに終わるだろうたまにうっすら赤く染まって 58
黙ってるから踏まれてる 僕だってたのしい話だけしてたいよ 79
⚫︎「だろう」の歌を全部ひいてみるだけで、なべとびすこ、という作者の「可動域」とでも言うかがわかる
不動産屋さんはたぶん言うだろうさくらが見えるベランダのこと 22
僕たちはどうせ長生きするだろうあればあるだけ絞ったレモン 28
締切を破ればどんな音だろう夜をスワイプして白い朝 31
ゴミ袋ちょっと濡れてる 枯れた日と捨てた日どっちが命日だろう 30
虹なんてたぶん出せずに終わるだろうたまにうっすら赤く染まって 58
誰と出会わなくてこれで済んだんだろうね段差に気をつけて進んだ 34
いつか部屋で逃しそこねた朝蜘蛛は空を見てから死ねただろうか 37
死ぬまでに言わない話ばっかあるト書きだらけのあとがきだろう 38
指定された靴ががばがばだとしても履くだろう かばんには絆創膏 40
解散のニュースはあの子にも届く揺れてるだろう生きてるなら必ず 48
西九条で駆け出す四人の少年がこれから取るであろう1UP
59
ほんとうを伝えるだけで燃えるだろう葬式でだけ着るワンピース 74
つぎ会えるのは春だろうまた一緒に不死鳥を鳥籠に閉じ込めて 77
君にとって僕はいつでも正しくてあくまで正しいだけなんだろう 84
飛行機が近いんじゃない この町の空が僕らに近いんだろう 85
脱いでから風呂をはさんで着るだろう夜をはさんでまた脱ぐだろう 89
「じゃあまた」の「また」のころには春だろう 風をリュックにしまって歩く 91
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このままじゃ無かったことにされるから叫べばのれんがただ揺れるだけ 79
※「されるだろう」をよけたことで、運動性が生まれた
新しい東の街は新しいあなたと調和することでしょう 113
波は海の指先だろう遠くからマイクロプラスチックが届く 114
ティラミスもコーヒーゼリーも進化して僕は苗字を変えないだろう 125
不在票三通 背の小さい僕の訃報はあなたに届くだろうか 131
夏と冬だけの日本になるだろう金ぴかの免許を返すころ 135
僕を支えたあなたの歌も消えるだろうベガが北極星になるころ 145
どこまでが海沿いだろうかさぶたは剥がれる瞬間まで僕だった 146
「であろう」 「でしょう」を含めると、24回「だろう」が出てくる
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⚫︎インターネットすぎておもしろくない
もしメロスが激怒するまえ6秒間待てば死人は増えただろうな 96
「死にたい」が「死のう」に進化しないようなんとか連打するBボタン 107
配られた人から後ろへ回しなさい希望は必ず分かち合うこと 64
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新宿へのぼる電車で自分史を一時間ぶん書いた老人
枡野浩一『枡野浩一全短歌集 毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである』