尾の代わりの両手を垂らし生きている時間をそっと床に逃がせり
初めから心が外にある季節 屋上にある扉に鍵を
ペンの跡青く滲んだポケットにどこまでゆけばふたりと言える
↪︎ たつぷりと遊びつくしたあとに来る小筆のやうなさびしさがある
╱山木礼子『太陽の横』
↪︎触つてはいけないものばかりなのに博物館で会はうだなんて(山木礼子「目覚めればあしたは」『短歌研究』2013年9月号)
○
魚は馬鹿ときみは言ってた ベランダに縮んでみえる東京タワー
↪︎月の夜に鮫の悪口云いまくるちっともこわくないとかなんとか(穂村弘『ぶご』)
○
柿の味よくわからない 耳に髪かけて言うとき耳はきらめく
遅すぎると言われ、遅すぎると思う。月を卵に見立てていた詩 86
泣くひとを見てるしかないドトールで白い絵の具に塗り潰される 41
↪︎祈るひとを祈るひといて折り紙のようにだんだん小さくなった 52
リモコンを握ったままで月を見る月の歴史の一粒となる
春原に数え切れない草戦ぎすべてを踏んで婚姻をした
半透明の付箋そよがすこの本を泣きたくなっている顔に乗す 117
↪︎一枚の紙の草地に姓と名、向こうへ馬は走っていった 95
↪︎ 奔馬ひとつ冬のかすみの奥に消ゆわれのみが累々と子をもてりけり(葛原妙子,橙黄』)
小島なお『卵(らん)降る』
⚪︎
女の子を裏返したら草原で草原がつながっていればいいのに
平岡直子『一枚板の青』
⚪︎
星ひとつぶ口内炎のように燃ゆ〈生きづらさ〉などふつうのテーマ
北山あさひ『崖にて』
⚪︎
産めば歌も変わるよと言いしひとびとをわれはゆるさず陶器のごとく
大森静佳『ヘクタール』
○
地の文、的な 説明の機能を負っている歌
遅すぎると言われ、遅すぎると思う。月を卵に見立てていた詩 86
連作「粘土」
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自分を「蝋燭」のように思う、(俺には)謎のツボ
それぞれにまだ家があり改札に別れてしまえば蝋燭の芯 110
同姓のふたりで借りる日産車助手席に座るほうが蝋燭 146