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吾輩は歴史を考える猫である 0011

0011 行基という泥まみれの聖者が、民衆の力で大仏という巨大な金塊を築き上げた後、歴史の舞台には、海を越えてやってきた一際厳格な、しかし慈愛に満ちた老僧が登場する。 名は鑑真(がんじん)。遥か大唐帝国から、日本の仏教に「筋(すじ)」を通すためにやってきた、不屈の男である。 吾輩は歴史を考える猫である(不屈の渡来僧・鑑真編) ルールを欲しがる奇妙な人々 人間という生き物は、つくづく不思議なものである。行基が堤防を築き、大仏が完成したというのに、今度は「誰が本当の僧侶か」という肩書きの正当性を気にし始めた。当時の日本には、僧侶が守るべきルール、すなわち「戒律(かいりつ)」を授ける正式な仕組みがなかったらしい。 「正しいルールを教えてくれる先生を、唐からお招きしよう」 そう考えた聖武天皇の命を受け、栄叡(ようえい)と普照(ふしょう)という二人の僧が、唐の地で鑑真に泣きついた。鑑真は、弟子たちが尻込みする中で「日本こそ仏法に縁がある地だ」と、たった一人で渡航を決意したのである。吾輩なら、見知らぬ異国へ行くなど、毛並みが荒れるから御免被りたいところだが、この老僧の決意は岩をも通すほどに固かった。 五度の失敗、そして光を失う しかし、自然の猛威は残酷である。鑑真の渡航は困難を極め、なんと五回も失敗に終わった。 * 嵐に巻き込まれて漂流し、多くの弟子や協力者が海の藻屑となった。 * その十数年に及ぶ苦闘の中で、鑑真自身も過労と病により、ついに両目の光を失ってしまったのである。 吾輩たち猫は暗闇でも目が見えるが、この男は心の目だけで日本という東の果てを目指し続けた。六度目の航海でようやく薩摩(鹿児島)の地に降り立ったとき、彼はすでに六十六歳。失明という大きな代償を払いながらも、初志を貫徹するその執念——。人間というやつは、時として神や仏をも凌ぐ恐ろしい力を発揮するものだ。 授戒の儀式と、麗しき唐招提寺 七五四年、平城京に辿り着いた鑑真を、聖武上皇(既に出家していたあの男だ)は手厚く迎えた。 東大寺の戒壇(かいだん):日本で初めての正式な授戒の場が設けられ、天皇から一般の僧に至るまで、鑑真から「正しい僧侶の証」を授かった。 唐招提寺(とうしょうだいじ):晩年、彼は自らの寺を建立し、そこを「律宗」の本山とした。 現在、そこには「鑑真和上坐像」という、日本最古の肖像彫刻が安置されている。目を閉じ、穏やかに座るその姿は、千年の時を超えて、今もなお人々に静かな威厳を示している。 薬草と文化の伝道師 また、彼は仏教だけでなく、当時の中国の最先端文化も持ち込んだ。 * 香辛料や薬草の知識を伝え、日本の医学の礎を築いた。 * 建築や彫刻の技術も、彼が連れてきた職人たちによって飛躍的に進歩した。 人間たちは彼のことを「和上(わじょう)」と呼び、尊んだ。彼がもたらした「ルール」と「文化」は、荒削りだった日本の世の中に、一本の背筋を通したのである。 盲目の老僧がもたらした光。それは目に見える光ではなく、教えという名の導きであった。 さて、次に吾輩がページを捲れば、今度は「都を奈良から京都へ移し、新しい時代を切り拓こうとする天皇」や、「山奥で修行に励むまた別の高僧たち」の物語が始まるのであろうか。それとも、鑑真が愛した「唐招提寺の静かな庭」で、吾輩が昼寝をする話でも聞きたいかね?
4月14日
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