#雑談
#ショートSTORY
#【波に乗れたなら】
#朗読
2026.8.23
【波に乗れたなら】
「今日イチ笑った〜」
焼けた肌に白い歯を見せて健二が
身体をくねらせていた
「そんなにおかしい?」と言いながら
私もつられて笑った
健二は湘南でサーフィンをする日々を楽しんでいた せっかく入った大学も
そっちのけだ
茅ヶ崎に住むサーフぁーの仲間のアパートに泊まる日も多かったが
友達だって 彼女さんを泊めたい日もある
「俺 由比ヶ浜の近くにアパート借りたいなぁ〜」
「大学はどーするの?」
あの頃は自分の思いどうりに全てが周り
地球も自分が回しているように感じた
八月に入り 台風が何度か 関東地方を襲った 危険なのは知っていても
サーファーにとっては 波が大きくなって
そのビッグウェーブに乗ってみたいのだ
健二はバイクにまたがり湘南を目指した
高速は通行止めには なっていない
踊る気持ちでスピードをあげた
次の瞬間 バイクはスピンして
側道に叩きつけられた
その後の事は覚えていない
気がついたら病院のベッドで
気がついた左足が無かった
自分の身に何が起きたのか
理解も出来ない
駆けつけた両親は泣いていた
その姿を見ても何も感じ無かった
それから毎日のようにお見舞い客が
オレの姿を見に来た
自分じゃ無くて良かったと
昨日までのストレスを俺の姿で相殺して帰った
こんな事ならいっその事
ベランダに出ては そんな事しか考えられない
月日が経ちリハビリが始まっても
その意味も目的も感じられなかった
リハビリ そして検査 この繰り返しで
健二は完全に目の光を失っていた
「今日の検査は血液検査とMRIです」
と看護婦さんが言った
(楽しいイベントが始まりますみたいな顔で言うな)
明るく振る舞う看護婦にもイライラする
病院の地下にあるMRIの部屋までは
車椅子で移動した
長椅子にも座れないのでそのまま車椅子に乗って順番を待つ
検査をしても俺の足が戻るわけでも無い こんな事に何の意味がある
車椅子の中で残った右足が上下に揺れて
そのイラだちを無意識に自分でも感じている
ふと横を見ると まだ小学生であろう少年が俺を見ていた
パジャマを着ているから検査なんだろう
こんな子供が一人で検査来るのか
健二は 思わず「一人?」と聞いた
少年は 嬉しそうに「うん一人だよ ここには何度も来てるから一人で行けますって看護婦さんに言ったんだ」
誇らしそうな顔で答えた
「おじさんは検査が怖いの?」
少年の質問には 大人の見舞い客が見せる
あの 同情するような雰囲気は無い
健二は 入院してから初めて素直に話した
「怖くないよ 君は?」
「僕も怖く無い」
「でもね 夜中に救急車の音がすると怖くなるんだ」
「おじさんもそうだよ」と健二が答えた
「だったらいい物あげるね」
と言って 少年はパジャマのポケットから 小さな巾着を取り出して
キャンディのような包みに入ったラムネを出して 周りを見まわしなが はい
と言って俺にくれた
「これはね ママからもらったんだけど
魔法のラムネなんだよ
お医者さんにも看護婦さんにも見せちゃダメよってママが言ったんだけど」
と言って声を小さくした
「あのね 怖い時に これ食べると
怖くなるなるの おじさんにも一個あげる」
そう言って緑のセロファンに包まれた
ラムネを一粒くれた
その日 健二は 病院のベッドで泣いた
布団をかぶって朝まで泣いた
翌日 腫れた目をしながらTVを観た
お笑いの人達が何ともくだらないノリツッコミをしている ほんの少し笑った
あれから五年
健二は大きなモニターの前に居た
サーフィンの大会で審査員をしていた時に
その知識に憧れたサーファー達が
相談に来て それがいつの日か
皆の前でその知識を披露する事が多くなって 今では 健二の事を「神」と呼ぶ人が多くなった。
有名人になった健二が
毎月 行く所があった それは
まだあの少年が入院している病院だ
何度が転院もしていたが 健二は
その度に訪ねて行った
ある日少年が聞いて来た
「おじさんは 神様なの?」
TVて観たのだろう
健二は 笑いながら言った
「オレが神なら…君は天使くんだ」
二人は 優しい顔で笑った…。