歌集『とてもしずかな心臓ふたつ』より
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よいつらら育つ真冬をありがとう ひどいことたくさんありがとう
じゃあまたと手をあげる時ナオユキはなんだかすごくナオユキになる
靴紐をきつく結んだ 好きでいることを謝りたいひとがいる
音叉から音叉にわたすささやかな震えが今のぼくらのすべて
市立病院最上階のあの窓の僕らの指紋はどうなったろう
倒されてよりよいかたち見せているわたしの青いよわい自転車
ひかりからもっとも遠い場所に置き角砂糖のつよさをたしかめる
ぎいと抜く古釘の錆うつくしゅうございましたと夏の手紙に
そんなふうに死んだひとを掴んではだめ いなくならない なりようがない
次に来る波をむかえにゆきなさい尾を高くしてわたしのけもの
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鵜飼信光さん回
https://stand.fm/episodes/66895473d6a52b638cb59683