WBCを観れば、世界史が見える
WBCを見ていて、不思議に思っていることがある。
なぜイタリアが強いのか。
なぜオランダが強いのか。
そして、なぜイスラエルが代表チームを持っているのか。
実はこれらはすべて、同じ理由で説明できる。
それは「野球」というスポーツが、単なる競技ではなく、移民と帝国と宗教の歴史の上に広がった文化だからだ。
今日は、WBCというスポーツイベントを入口に、少し大きな話をしてみたい。
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野球の分布はかなり偏っている
いまNetflixでは、WBCの予選リーグのハイライトが流れている。
それを見ていて、改めて気づくことがある。
野球は世界中で均等に広がっているスポーツではない。
サッカーはほぼ世界全域に広がっている。
しかし野球は、かなり偏りがある。
これはなぜなのか。
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野球とクリケットの分岐
サッカーも野球も、もともとはイギリス発祥である。
- サッカー → フットボール
- 野球 → クリケットの系統
イギリスは大英帝国であり、世界中に文化を広げた。
その中でスポーツも広がっていった。
ただし、ここで重要な分岐が起きる。
クリケットが残った地域には、野球は広がらなかった。
インドやオーストラリアなど、旧イギリス植民地では今でもクリケットが非常に人気だ。
僕もインドを旅行したとき、酒場でずっとクリケット中継が流れているのを見て驚いたことがある。
クリケットはとても伝統的なスポーツで、試合が何日も続くこともある。
いわば貴族のスポーツだ。
それをより近代的にしたものが、アメリカのベースボールである。
つまり野球は「クリケットが広がらなかった地域」に、アメリカ経由で広がったスポーツなのである。
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イタリアが強い理由
WBCを見ていると、なぜイタリアが強いのかと感じるだろう。
ヨーロッパで野球が盛んなイメージはあまりない。
しかし実は、これも歴史と移民の問題で説明できる。
イタリアは19世紀まで統一国家ではなかった。
小国に分裂していた国が統一されたのは、日本の明治維新とほぼ同時期である。
その後、産業革命を進めるのだが、問題があった。
産業革命が北部にしか起きなかった。
南部は貧しい農村社会のままだった。
この南部の人々が、大量にアメリカへ移民したのである。
その移民の子孫が、アメリカで野球を始めた。
象徴的な人物が、ジョー・ディマジオである。
ヤンキースの伝説的選手だ。
つまり、現在のイタリア代表はイタリア本国の野球ではなく、アメリカのイタリア系移民の野球なのだ。
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オランダが強い理由
もう一つの不思議がある。
オランダが強い理由だ。
実はこれも、ヨーロッパの話ではない。
オランダは昔、大きな植民地帝国だった。
その影響で、カリブ海に領土を持っている。
それが、キュラソー島やアルバ島だ。
この島々は、ベネズエラのすぐ北にある。
そしてカリブ海は、野球が非常に盛んな地域だ。
ドミニカ、プエルトリコ、キューバなど、MLB選手を大量に生む地域である。
キュラソー島も、人口は小さいがMLB選手を多数輩出している。
つまりオランダ代表は、ヨーロッパの野球ではなく、カリブ海の野球なのである。
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中南米が野球大国の理由
同じ構造は中南米にもある。
メキシコやベネズエラなどの国が強いのは単純だ。
アメリカに近いからである。
野球はアメリカの国技に近いスポーツだ。
その影響を強く受けた地域では、野球が盛んになる。
しかもMLBで成功すれば、莫大な収入が得られる。
教育環境が十分ではない地域では、野球は人生を変えるチャンスになる。
だから才能のある子どもが、野球に集中するのである。
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日本・韓国・台湾の野球
東アジアの野球も同じだ。
日本、韓国、台湾などの国はすべて、アメリカの影響を強く受けている。
特に日本は戦後、アメリカの統治を受けた。
そのため野球文化が深く根付いた。
もちろん、正岡子規のような人物が野球を文化として広めた歴史もある。
しかし大きな流れとしては、アメリカ文化の影響が大きいと言える。
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では、イスラエルはなぜ強いのか
ここで、もう一つの疑問が出てくる。
イスラエルである。
なぜイスラエルが強いのか。
実はこれも、アメリカが関係している。
イスラエル代表の多くは、アメリカ在住のユダヤ系選手なのだ。
ユダヤ人は長い歴史の中で世界中に散らばった民族だ。
これをディアスポラという。
その結果、
- ヨーロッパ系ユダヤ人
- アメリカ系ユダヤ人
- アフリカ系ユダヤ人
など、さまざまなコミュニティが存在する。
そしてアメリカには、非常に多くのユダヤ系人口がいる。
彼らがイスラエル代表として出場しているのである。
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ここから政治の話になる
ここで、話は政治につながる。
なぜアメリカは、ここまでイスラエルを強く支持するのか。
理由の一つは、アメリカ国内の政治構造だ。
アメリカには
- ユダヤ系アメリカ人
- 福音派キリスト教徒
という、イスラエル支持の強い層が存在する。
特に福音派は、共和党の大きな支持基盤である。
そして彼らは非常に強い親イスラエル思想を持っている。
その結果、アメリカ政治はイスラエルを強く支持する構造になっている。
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WBCは世界史の縮図である
ここまで見てくると分かることがある。
WBCに出てくる国々の強さは、スポーツの問題ではない。
移民、植民地、宗教、政治などの歴史の結果として、野球の地図が出来上がっている。
だからこそ、WBCを観ると世界史が見えてくるのだ。