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快食ボイス774・「本来の味」を説明できますか——グルメ発信者に問いたいこと

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はじめに グルメ雑誌を読んでいても、飲食店のレビューを読んでいても、SNSのグルメ投稿を眺めていても、いつも気になることがある。 料理の具体的な話ではなく、お気持ちの表明が多すぎる。 「素材の味を引き出した」「本来の味がする」「丁寧に仕込んだ」「旬の食材を使用」——そういう言葉がずらりと並ぶ。 そうだね、あなたがどう考えたのか、そのお気持ちは尊重する。 だが、料理がどうなのかを説明してくれ。 そう思ってしまうのは、僕だけだろうか。 --- 「素材の味を引き出した」——何を言いたいのか、さっぱりわからない まず「素材の味を引き出した」という表現について考えてみたい。 文脈によっては「塩を使いすぎない」「添加物で上書きしない」「引き算の料理です」という意味で使われているケースもあるだろう。 これはまだわかる。 だが「旨味が感じられる」とか「甘みが引き立つ」という意味で使われることもある。 となると途端に話が怪しくなってくる。 たとえばカブを例に考えてみよう。 カブの「本来の味」って、何だろうか。 カブは中央アジアから地中海沿岸が原産とされ、日本には古くから伝わり、各地で多様な在来品種が生まれた野菜だ。 辛みの強いものもあれば、甘みの強いもの、サクサクと軽いもの、繊維が強くずっしりとしたものもある。 同じカブでも、品種も産地も時期も違えば、味はまったく別物だ。 カブ一つをとっても「本来の味」とは何かを僕は答えられない。 魚介類はなおさらだ。 漁場、時期、漁獲後の手当、輸送、保存——あらゆる条件が重なって、ようやく「最上の状態」が生まれる。 それを「本来の味」と呼ぶなら、それは一食3〜5万円クラスの料理でなければ実現しない話だ。 前提条件が丸ごと抜け落ちたまま「本来の味を引き出した」と言われても、何も伝わらない。 --- 「手間をかけた」「職人が一つ一つ」——何をしたのか、言ってほしい 似たような言葉はほかにもたくさんある。 「手間をかけた」——何をどう手間をかけたのか書いてなければ、そもそも判断できない。 手間をかけた結果おいしくなったのか、それとも手間のかけ方を間違えたのかも、読んでいてはわからない。 「職人が一つ一つ手作りで」——これも要注意だ。 職人の手仕事がベストになる場面は確かにある。 だが機械や自動化のほうが精度が高い工程も多い。 「手作り」それ自体が品質の保証にはならない。 「旬の食材」——これが一番難しいかもしれない。 気候変動の影響で、旬は毎年変わる。 何をもって旬とするのか、その定義なしに「旬」と書いても、もはや何の情報にもならない。 --- 「無添加」「余計なものを加えていない」——余計って何だ? さらに輪をかけてわかりにくいのが「無添加」という言葉だ。 何を添加していないのか。醤油は? 塩は? 砂糖は? 何を加えたら「余計」なのか。 基準が示されていなければ、「無添加」という言葉は何の判断材料にもならない。 なんとなく「体によさそう」というイメージを喚起するだけの、ぼんやりしたスローガンにすぎない。 --- 「こだわり」——本来はネガティブな言葉だった 「こだわり」という言葉も気になる。 もともと「こだわる」とは「些細なことに引っかかる」「とらわれる」という意味のネガティブな言葉だ。 「些細なことにこだわるな」という使い方が正しい用法だった。 それがいつの間にか「妥協しない職人気質」「細部への執着」というポジティブな意味で使われるようになった。 1980〜90年代のグルメブームあたりが転換点だったように思う。 だが考えてみてほしい。 より美味しくなる方法があるなら、自分のやり方にとらわれずに改善する方が、料理としては誠実ではないか。 「こだわり」をポジティブに使うなら、それがなぜ美味しさに直結するのかの説明がいる。 --- では、どう伝えればいいのか 答えはシンプルだ。具体的に話せばいい。 「手間をかけた」ではなく→「0℃〜マイナス1℃で48時間低温貯蔵して熟成させた」 「旬の魚」ではなく→「4月中旬から5月中旬にかけて、浜田沖で水揚げされるマアジは、脂質の多いプランクトンを大量に摂取する時期にあたり、体脂肪率10%以上になったものを地元ではどんちっちアジとしてブランド化している」 場所、数字、時期、理由——これらが揃えば、読んだ人はちゃんとイメージできる。 もう一つ大切なのは、自分の感覚を言語化するトレーニングをすることだ。 「深みがある」「おいしい」という反射的な言葉を、一歩立ち止まって「どうおいしいのか」に変換する練習。 これを続けることが、発信者としての誠実さだと思う。 --- おわりに ぼんやりしたお気持ち表明は、書く側にとっては楽だ。 何も考えなくていい。 それらしい言葉を並べておけば「伝えた気」になれる。 だが読む側には何も伝わらない。 そして正確な批評がなければ、料理人も改善のしようがない。 広島の食文化を発信する一人として、正確に伝える努力を続けていきたい。 言葉は不完全だ。 それでも、なるべく具体的に、なるべく誠実に——そこを放棄したくはない。
4月19日
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