子供の頃から「バーベキュー」と言えば、スーパーで買ってきたカルビやステーキ肉を網に置き、焼けたはしから焼肉のタレで食べるものだった。
ところがNHKの「激突メシあがれ!」のBBQの回では、僕の知らないBBQが繰り広げられていた。
あの料理形態は何なのか?
調べると「本来のバーベキューは、硬くて扱いづらい部位を時間と技術でおいしくする料理」とあった。
日本人が抱くBBQ観は、実は「別物」かもしれない
日本でのバーベキューは、柔らかくて旨い肉を丁寧に焼く、という発想が強い。
A5和牛や海鮮のような素材力が価値の文化だ。
しかし、ルーツであるアメリカ南部のバーベキュー文化にはまったく違う価値観があった。
硬くてそのままでは食べられない部位こそBBQに向いている。
そう言ってもいい。
火加減と時間を味方にして、硬い繊維をほぐし、肉が本来持っている旨味を引き出していく。
黒い肉塊の記憶
昔観た「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」という映画に、黒い肉塊が出てきた。
焦げているのではなく、長時間のスモークで表面が真っ黒になった肉塊だった。
しかし、スライスすると肉汁が溢れ、映像だけで超旨そうで、何だこの肉は!と衝撃を受けた。
今回、調べてやっと理解したのだが、アレはブリスケットを10時間以上低温でスモークしたバーベキューで、アメリカ南部の黒人奴隷たちの知恵が背景にあるようだ。
彼らに与えられるのは、そのままでは食べられない、硬い肉ばかりだった。
しかし、虐げられた人々が、手間と技術で「見捨てられた肉」をご馳走に変えたのだ。
そこにバーベキューの本質があった。
実は、広島市にも同じ物語がある
そして気づいたが、身近にもこの構造は存在していた。
広島市でおなじみのコウネ。
一般的にこの部位はブリスケットと呼ばれる。
脂が強く、焼いただけでは硬くて食べづらい。
かつてはホルモンと同等の扱いをされた部位だ。
つまり「硬くて食べにくい肉を、料理の力で光らせる」というストーリーは、広島市にもあった。
アメリカ南部と広島市。
距離も歴史も違うのに、同じ答えに辿り着いているのが面白い。
食文化では、境遇の似た人々が、同じ方向で知恵を絞った結果、似たものが生まれるのかもしれない。
バーベキューを見る目が変わる
何が「おいしい肉」なのかは、時代や立場によって変わるが、確かなことがある。
料理とは、価値がないとされた食材に新しい価値を与える行為だ。
ブリスケットやコウネの料理は、かつて価値が低いとされた部位を使った、虐げられた人たちの叡智の結晶だったのだ。
僕はインスタ映えする料理よりも、こういう料理が遙かに尊いと思う。
あなたはどう考えるだろうか。