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快食ボイス662・ブリスケットとコウネ、硬くて食べにくい肉の歴史

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子供の頃から「バーベキュー」と言えば、スーパーで買ってきたカルビやステーキ肉を網に置き、焼けたはしから焼肉のタレで食べるものだった。 ところがNHKの「激突メシあがれ!」のBBQの回では、僕の知らないBBQが繰り広げられていた。 あの料理形態は何なのか? 調べると「本来のバーベキューは、硬くて扱いづらい部位を時間と技術でおいしくする料理」とあった。 日本人が抱くBBQ観は、実は「別物」かもしれない 日本でのバーベキューは、柔らかくて旨い肉を丁寧に焼く、という発想が強い。 A5和牛や海鮮のような素材力が価値の文化だ。 しかし、ルーツであるアメリカ南部のバーベキュー文化にはまったく違う価値観があった。 硬くてそのままでは食べられない部位こそBBQに向いている。 そう言ってもいい。 火加減と時間を味方にして、硬い繊維をほぐし、肉が本来持っている旨味を引き出していく。 黒い肉塊の記憶 昔観た「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」という映画に、黒い肉塊が出てきた。 焦げているのではなく、長時間のスモークで表面が真っ黒になった肉塊だった。 しかし、スライスすると肉汁が溢れ、映像だけで超旨そうで、何だこの肉は!と衝撃を受けた。 今回、調べてやっと理解したのだが、アレはブリスケットを10時間以上低温でスモークしたバーベキューで、アメリカ南部の黒人奴隷たちの知恵が背景にあるようだ。 彼らに与えられるのは、そのままでは食べられない、硬い肉ばかりだった。 しかし、虐げられた人々が、手間と技術で「見捨てられた肉」をご馳走に変えたのだ。 そこにバーベキューの本質があった。 実は、広島市にも同じ物語がある そして気づいたが、身近にもこの構造は存在していた。 広島市でおなじみのコウネ。 一般的にこの部位はブリスケットと呼ばれる。 脂が強く、焼いただけでは硬くて食べづらい。 かつてはホルモンと同等の扱いをされた部位だ。 つまり「硬くて食べにくい肉を、料理の力で光らせる」というストーリーは、広島市にもあった。 アメリカ南部と広島市。 距離も歴史も違うのに、同じ答えに辿り着いているのが面白い。 食文化では、境遇の似た人々が、同じ方向で知恵を絞った結果、似たものが生まれるのかもしれない。 バーベキューを見る目が変わる 何が「おいしい肉」なのかは、時代や立場によって変わるが、確かなことがある。 料理とは、価値がないとされた食材に新しい価値を与える行為だ。 ブリスケットやコウネの料理は、かつて価値が低いとされた部位を使った、虐げられた人たちの叡智の結晶だったのだ。 僕はインスタ映えする料理よりも、こういう料理が遙かに尊いと思う。 あなたはどう考えるだろうか。
11月24日
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