おすすめを聞かれて、答えに詰まった
今日「マラータンってどこがいいですかね」と聞かれ、答えに詰まった。
僕は今のマラータンという形態にあまり魅力を感じていない。だからどこがおいしいかと言われても、積極的に食べ歩いていないので答えようがない。紹介するなら落ち着いてからかな、というのが本音だ。
この料理が面白いのは、日本への入り方だ。中国からの直輸入ではなくて、韓国経由なのだ。2019年に韓国でK-POPアイドル発信のブームが起きて、そこから日本に来ている。だから日本のマラータンの店にはトッポギなんかが置いてある。トッポギは中国にない食材だから、韓国経由だというのがすごくわかりやすい。
中国料理店が潰れる中で、なぜマラータンだけ伸びるのか
今、飲食店はどこも厳しい。仕入れ値は上がっているのに、客の給料は増えていない。正確には給料が増えても社会保険料で持っていかれるから、可処分所得が増えていない。客は皆、生活防衛をしていて、外食は真っ先に削られる。中国料理店もどんどん閉店している。
なのに、マラータンだけは伸びている。この1、2年で一気に増えた。よく言われるのは「ヘルシーだから」だ。自分で具材を選べるから、野菜をたくさん摂ればヘルシー、というのは確かに一理ある。しかし、身も蓋もない言い方をすると、情弱ビジネスに近いと僕は考えている。
春雨も練り物も、健康のトリックだ
まず春雨。低カロリーだと言われるが、半分はトリックだ。乾燥状態だと100gで糖質83g、ほとんど乾燥パスタと変わらない炭水化物の塊だ。茹でると水を吸って膨らむから、100gあたりのカロリーは低く見える。でも乾燥重量で言えばパスタと同じ。要するにブヨブヨに茹でたパスタと変わらない。水分が多いだけで、満足感を得るにはそれなりの量を食べないといけない。
それから、あのカラフルな練り物。あれが非常に多い。なぜかというと、冷凍できて流通が楽だからだ。肉も冷凍スライス、野菜は冷凍に向かないから増やせない。でも練り物は、日本製であっても増粘剤やらいろんな添加物が多い。魚だから油脂が少なくて健康的と思うかもしれないが、練り物のような魚肉加工品は、そんなに身体にいいものではない。
薬膳という名のお化粧
スープも「薬膳」「漢方」と歌うけれど、ぶっちゃけカレーのスパイスと同じようなものだ。本来の薬膳なら、その人の症状に合わせて用意するべきだろう。誰が食べても体にいい薬なんてない。風邪薬を健康なときに飲んでも意味がないのと同じで、薬理作用があるものを健康なときに摂るのは、言い方をきつくすれば毒だ。漢方にも劇薬はたくさんある。
つまり、いくら食べても健康に影響がないということは、薬理効果もないということ。なんとなく体に良さそうな雰囲気をまとっているだけだ。本当に効くと言ったら薬事法違反になる。サプリメントなら薬品的な効果を謳った瞬間にアウトだけれど、食品の、特に薬膳という言葉はまだ規制が入っていない。そのグレーゾーンをうまく突いている。
実際のスープも、ちゃんと豚骨や牛骨から出汁をとっている店もあるにはあるが、セントラルキッチンから来た底料(ていりょう)をお湯や牛乳で溶いて作っている店がほとんどのようだ。油も塩もしっかり使う。結局、ラーメンとそんなに変わらない。ラーメンは男性が背徳的に好むものとして語られるけれど、栄養構成は大して変わらないのだ。
女性向けの二郎、という見立て
要するにマラータンは、ラーメンに健康と薬膳のお化粧をして、女性向けに仕立て直した料理だと僕は見ている。「女性向けの二郎」という言い方を聞いたことがあるが、言い得て妙だ。二郎だってもやしとキャベツはけっこう食べられるし、麺を減らせる店もある。栄養構成で言えば、実はそんなに変わらない。
女性が一人でも食べたいものを選べる、というニーズは、社会進出とともに生まれた良い流れだし、それ自体はポジティブだ。マラータンは自分で具材をチョイスできるのが良さでもある。構造としてはサブウェイに近い。健康的なチョイスもできますよ、という選択肢が用意されているだけで、選ぶ中身次第ではいくらでも背徳的になる。それをラーメン的な仕掛けで成立させたのが、マラータンの上手なところだ。
ただ、客が具材を取れば取るほど店は儲かる。健康に良いというのは、客を呼ぶための仮面に過ぎない。マラータンには一人で野菜が摂れる食事、という繰り返し使える役割があるから、タピオカミルクティーのように完全に消えはしないと思うが、店が増えすぎているので淘汰はされるだろう。そしておそらく生き残るのは、本気で健康を追い求めて薄味と低カロリーを貫く店ではない。生き残るのは、健康そうな見た目を保ちつつ、中身はちゃんとおいしく、食べ応えがあり、また食べたくなる店だろう。
マラータンを健康食として語るのは、半分間違っている。あれは健康の仮面をかぶった背徳料理だ。上手に騙してくれるのを求めているならそれでいい。でも、賢い消費者になった方がいいですよ、とは言っておく。昨日も同じことを語った気がするけれど。