大人気店に客がいなかった
昼飯を食べたあと、近くまで来たからと馴染みの店の覗いてみると客がいない。
それなら挨拶だけしとこうと思って店に入った。
平日はいつも客でいっぱいで、店主が一人で回しきれずにテンパっている、そういう店なのだ。
今日は土曜で、周りは製造業の工場ばかりだから休みで空いているのかな、と思った。
「お久しぶり!」と店に入ると「こっちはテレビで顔見とるけどな」とからかわれつつ、話をすると平日も客が減っているという。
メニューを見たが、値上げすらしていない。
これだけ多くの店が値上げしている中で、今でも700円あれば腹いっぱい食べられて、しかもちゃんとうまい。
そんな店が職場のすぐ近くにあったら、そりゃ通うに決まっている。
その店ですら客が減っている。
これが、僕には衝撃だった。
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みんな、弁当箱を買い始めた
なぜかと聞くと、みんな弁当に変わったのだという。
業者が届ける弁当ですらない。
弁当箱を買って、自分で詰めて持ってくる人が増えたらしい。
これは何度も言ってきたコストプッシュ型のインフレの帰結だ。
物の値段だけが上がって、手取りが増えない。
社会保険料がどんどん上がるから、増えた実感がないどころか、むしろ減っている気すらする。
僕も社会保険料と市県民税を今月末に一括で支払うが、考えると頭が痛い。
その店も、さすがに値上げしないとまずいと言っていた。
客単価750円で腹いっぱいになる料理を出していたら、そりゃ無理だ。
とはいえ、値上げすれば今残っている客まで離れかねない。
動くも地獄、動かぬも地獄、というところだろう。
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牛丼三社で、起きていること
これだけ外食が減っているなら、定番の牛丼屋はどうなのか。
吉野家、すき家、松屋を調べてみた。
すき家は営業利益が大きく落ちている。ただ、これは2025年初めに異物混入の件があったので、そこからの落ち込みと見るのが妥当で、ひとまず別枠だろう。
吉野家も落ちている。
ところが松屋だけは落ちていない。なぜかと見に行ったら、ハンバーグ定食、トマトのチキンカレー、サムゲタン風スープ、ふわたまのうな丼と、高単価メニューをどんどん投入していた。
牛丼という土台は残しつつ、そういう一皿で客単価を上げて稼いでいるわけだ。
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牛丼以外で、稼いでいる
連結で見ると、すき家も吉野家も、むしろ売上は伸びている。
すき家は、はま寿司。
吉野家は海外事業と、はなまるうどん。
小麦粉は安いから、うどんはこういう厳しい時にこそ強さを発揮する。
なか卯も同じで、看板の親子丼は抜群だが、それ以外もどんどん増やしている。
牛丼専門店ではなく、中身を入れ替えていける総合店に静かに姿を変えて、収益性を保とうとしているわけだ。
つまり、お馴染みの牛丼そのものからは客が離れている。
でも、外食が嫌いになったわけではない。
みんな外食は大好きで、お金がないから行きたい店だけに絞っている、という行動変容をしているだけだ。
だとすれば、「行きたい」と思わせられるかどうか。
その流れに乗れるかどうかなのだ。
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思い出してもらえるか
大手町の麻婆豆腐専門店「辣辣」はいつも行列している。
味がいいのはもちろん、奥さんの仕切りが見事で回転が速い。
ときどき強めの物言いをされることもあるが、だからこそみんなテキパキ食べて、どんどん入れ替わる。
回転がいいから値上げせずに持ちこたえる、いい循環ができている。
あの奥さんのサービスは、僕はファインプレーだと思っている。
あの店は元々、段原でイタリアンをやっていて、出してみた麻婆豆腐が評判を呼び、鷹野橋に移って専門店にして化けた。
あの値段で、あの味で、しかも中毒性がある。
結局、どれだけ客に思い出してもらえるかだ。
そのためには、いろいろやってみるしかない。
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業態を、飛び越える
人間はどうしても過去の成功にとらわれる。
「これは昔から人気なんだ」という料理でも、潔くやめて新しい業態に切り替える。
だめならまた次をやる。
横川駅裏の「ニコイチマート」も、最初から人気店だったわけではない。
少し前に僕がnoteにあげた「江戸天」のカレー中華のレシピを「使っていいか」と聞かれたので「善吉」の鴉田さんに仁義だけ切っといてねと伝えると、もう既に店で出しているようだ。
あのフットワークの軽さだ。
ベンチャーで言うアジャイル、リーンスタートアップと同じで、小さく出して、当たらなければ作り直すか別を作る。
飲食店も起業であることに変わりはない。
同じ料理を出し続けて客が来ないのは、やはり厳しい。
突拍子もないものを、突然やってみる。
イタリアンの料理人が麻婆豆腐を作るくらいのことだ。
当てにいくのではなく、とにかく数をやってみる。
何が当たるかはわからないのだから。
松屋が牛丼屋なのにサムゲタンを出すくらいの、「俺は和食の料理人だ」「いや、フレンチだ」という枠すら飛び越えるアグレッシブさ。
今は、景気が戻るまで生き残れるかどうかの戦いに、もう入っている。
なりふり構わず、それくらいのことをやっていく必要があるのだと思う。