日本の料理はこの20年でそんなに変わっていない
今、日本料理が外国の人たちにめちゃめちゃ受けている。
「日本の料理最高」とSNSで言われている。
でも僕からすると、日本の料理はこの20年、そんなに変わっていない。
トップレベルの店はいろいろ進化しているけれど、町場の料理はずっと変わらず美味しかった。
もちろん年々少しずつは良くなっている。
僕が20代の頃、30年前は今から考えると驚くほど不味い店もあったけれど、今はもうそんな店はほとんど残っていない。
情報が民主化されたことにより閉店してしまったのだ。
つまり、日本の料理は昔からずっと美味しかった。
「和食」という狭い意味ではなく、我が国の料理という意味での日本の料理は、基本的にずっと美味しかったのだ。
だとすれば、最近になって外国の人たちが急にベタ褒めし始めたのは、料理が変わったからではなくて、受け止め方が変わったからではないか。
今日はそういう、学術的な裏付けのない、僕のフィーリングの話をしてみたい。
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保守とリベラルは、本能と理性の話だと思う
政治の話だと思わないでほしいのだけれど、「右」と「左」という言葉がある。
右は保守、左はリベラルと言われる。
この本質はどこにあるのかというと、保守というのは人間の生き物としての本能、野生的な感覚に近いところにあると僕は思っている。
弱いものは叩いていい、強いものが総取りしていい、力の強い男性の方が優位であるべきだ、というのはかなり動物的な発想だ。
これに対してリベラルは、その本能をどう克服するかという話になる。
資本主義が生まれた頃、万人の万人に対する闘争状態だと指摘したのはたしかホッブズだったと思うけれど、我々はその野生動物的な状態を克服しなければならない、人間はもっと理性的な生き物なのだから理性に則って生きるべきだ、というのがリベラルの発想だ。
男女で差別をするのはおかしい、生まれながらの貧困がそのまま固定されるのはフェアではない。
そういう感覚だ。
こうしたリベラリズムは一時期、世界的にかなり強く支持されていた。
オバマさんの頃のアメリカなどは正にそうだった。
それが今、トランプさんの時代になって、もっと本能的な方向に振れている。
これはアメリカだけでなく、ヨーロッパでも日本でも同じような流れがあると思う。
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15年前のレストランは、みんな「意識高い系」だった
実はレストランの世界も同じだった。
15年ほど前、僕が当時読んでいた本を今読み返しているのだけれど、ニューヨークの一流シェフたちが口にしていたのは、グリーン化、ローカリズム、サステナブル、オーガニック、エアルーム(伝統品種)、フェアトレードといった言葉だった。
生産地を買い叩かず、エネルギーと水を節約する、メニューは再生紙で、食器や椅子は地元アーティストの作品を使い、生ゴミはコンポストで堆肥にして、スタッフのユニフォームは古着を使う。
そういうレストランのあり方が、リベラルな価値観そのものとして流行していた。
このような考え方が、当時の最先端レストランにとっては看板のようなものだった。
日本はこの流れにあまり乗らなかった。
ずっと「美味しくて安いことが一番大切じゃないか」という考え方を続けていた。
トップレストランはそういう思想的な取り組みをやっていたけれど、多くの店は「お客さんにそれ、関係なくない?再生可能な容器だとか、土に還る素材だとか、そんなことを言ってみても響かないよね」というスタンスだった。
だから当時は、これだけ美味しいものを作る力があるのに、世界のあり方に意識を持たない日本の料理人、というふうに見られていたかもしれない。
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世界が本能側に振れて、日本料理が輝きだした
でも、世界全体がリベラルな感覚から、だんだん本能的な方へ寄っていくと、話が変わってくる。
安くて美味しいことを重視するというのは、まさに本能的な価値観だ。
オーガニックじゃない、サステナブルじゃない、と価値判断していた人たちが、そうしたリベラリズムを取り払ってみると、日本の料理はめちゃくちゃ安くて美味しいということに気づき始めたのではないか。
日本は戦後からずっと、安くて美味しいを追求してきた。
世界中から食材を輸入できるだけの経済力があり、それを評価する繊細な味覚もある。
料理人からすれば面倒くさいかもしれないけれど、その繊細な感性に応え続けてきたのが日本のレストランだ。
この20年変わっていない日本の料理が、今になって世界中から絶賛されているのは、サステナブルだフェアトレードだと小難しいことを言っている国のレストランよりも、そんなことを一言も言わずにこれだけ安くて美味しくてボリュームがある方が結局は強い、という一周回った評価の仕方に、世界がようやく戻ってきたからではないかと思う。
15年前だったら「意識が低い」と断じられていたかもしれないその姿勢が、今はむしろ最高の評価を受けている。
安くて美味しくてボリュームがある。
生き物としての本能からすれば、それは当たり前に最高のことのはずだ。
これは本当に学術的な裏付けのある話ではなくて、僕の身体感覚から言っていることなので、見当違いだと思ったらぜひ遠慮なく反証してほしい。
なぜ見当違いなのかというところまで含めてきっちり指摘してもらえると、僕自身の勉強にもなる。
15年前の雑誌を読みながら、レストランのトレンドもここまで変わるんだな、そしてそれは政治とも無縁ではいられないんだなと、あらためて感じた話でした。