言えないことがあった。
心配をかけたくなくて、
「なんでもない」と笑っていた。
なくなった靴。
職員室で借りた、少し大きな茶色いスリッパ。
半乾きの服。
誰にも言わずに帰った道。
でも、走ることは好きだった。
風の中では、前だけを見ていればよかった。
道の向こうから名前を呼んで、応援してくれる人たちもいた。
あの頃には言えなかった一言も、
今なら、きっと堂々と言える。
「靴がなくなりました」
そして今なら、
好きな靴を自分で選ぶこともできる。
過去を消すのではなく、
あの頃の自分も連れて、この先へ。
そんな景色を一曲にしました。
『風だけは知っていた』
今度は、どこまで行こうか。
※心理職としての守秘義務と職業倫理を大切にしています。作品は特定の相談者・患者さんの体験や相談内容を題材にしたものではありません。歌詞の背景や着想については、作品としての余白を残すため、あえて説明していません。
この曲に込めた景色や、「なぜ言えなかったのか」「それでも走ることが好きだった」という少年の心について、noteにもう少し書きました。
曲を聴いたあとに、よかったら読んでみてください。
📝 note
『言えなかった「靴がなくなりました」|オリジナル曲「風だけは知っていた」』
https://note.com/kanousei/n/n2fa4f43892c7
【風だけは知っていた】
[Verse 1]
まだ乾かないシャツを着て
冷たい靴下 足を入れた
昨日の夜に手で洗って
朝になったら それで行く
玄関出たら 走り出す
鞄が背中で 跳ねていた
角を曲がって 坂を越えて
息が切れるほど 気持ちいい
人前に出るのは 苦手なくせに
なぜかみんなが 笑ってた
何がおかしいか わからなくて
僕もつられて 笑ってた
[Pre-Chorus]
家のことなら 誰にも言わない
聞かれなければ いつも通り
平気だった わけじゃない
平気な顔が うまかった
[Chorus]
走れ 走れ
朝の風を抜けて
言えないことは
置いたままでいい
胸いっぱいに
冷たい風を入れて
昨日より少し
遠くまで
大会の日には 道の向こうから
僕の名前を 呼ぶ声がする
手を振る余裕も なかったから
少しだけ速く 走ってみせた
走れ 走れ
勝ちたかったのかな
それより 走るのが
好きだった
[Verse 2]
走っているときは
前だけ見てれば よかった
気づけばいつも
ゴールが近くに 見えていた
名前を呼ばれると
ちょっと恥ずかしくて
褒められるより
もう一度 走りたかった
教室へ行く前
下駄箱を見る
今朝も うわばきが
見つからない
昨日 ここに
置いたのにな
[Pre-Chorus 2]
先生には また注意されて
違うんですって 言えなかった
職員室まで 歩いていって
茶色いスリッパを 借りに行く
お客さん用の 大きなスリッパ
歩くたびに ぱた ぱた 鳴る
どうしたのって 聞かれても
なんでもないよって 笑ってた
[Chorus 2]
走れ 走れ
校庭の向こうまで
放課後になれば
また僕の足になる
頑張れって 声がすると
なぜかもっと 速くなれた
何も言えなかった 僕なのに
走る僕なら みんなが知ってた
走れ 走れ
何かになるためじゃない
風の中にいるときは
僕は 僕だった
[Verse 3]
次の日の朝も
下駄箱へ行く
また うわばきが
見つからない
またかって
心の中で つぶやいた
先生に言えば
きっと家まで 届くから
今日もスリッパで
過ごせばいい
誰かが心配するくらいなら
僕が困れば それでいい
[Bridge]
たまに 外の靴まで
なくなった
帰る靴がなくて
裸足で帰った日もある
足の裏の 小石より
どうしたのって
聞かれるほうが 嫌だった
だから家でも
何も言わなかった
心配する顔を
これ以上 増やしたくなかった
今なら思う
毎朝 そんなに
なくなるんなら
下駄箱なんか
使わなきゃ よかったな
[Break]
靴が なくなりました
たったそれだけが
あの頃は
言えなかった
[Final Chorus]
走れ 走れ
好きなだけ 走れ
半乾きの朝も
茶色いスリッパの日も
誰にも言えないものを
抱えたままで 走ってた
あの日の風は
何も聞かなかった
道の向こうから
名前を呼ぶ声がした
走れ 走れ
悔しい日も
寂しい日も
それでも僕には
好きなものがあった
速くなること
遠くへ行くこと
身体いっぱい
風を受けること
僕は僕の足で
ここまで来た
[Outro]
だから今なら
堂々と言える
「靴がなくなりました」
もう 隠さなくていい
それに
今なら自分のお金で
新しい靴を 買える
好きな靴を選んで
ちゃんと紐を結んで
また 走ればいい
今度は
どこまで 行こうか
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