人的供給制約社会という現実
今日は「人的供給制約社会」、いわゆる人手不足について考えてみたい。
この話を象徴的に示す出来事が、名古屋駅前の名鉄ビルの建て替え計画を白紙に戻したという話だ。
あの巨大なナナちゃん人形が立つ、名古屋を代表するランドマーク。
そのビルが2026年2月に閉業し、解体される予定だったにもかかわらず、その先が見えなくなった。
閉業は決まっている。
しかし、いつ壊せるのか、いつ建て直せるのかは分からない。
駅前に巨大な廃ビルが生まれることになる。
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建て替えが止まる理由
原因は単純で、人がいない。
当初担当する予定だったゼネコンが、人手不足を理由に工事を辞退したという。
加えて、工事費は当初想定の倍近くまで膨らんでいた。
人が足りなければ、職人はより条件の良い現場に流れる。
結果として、工事費は上がる。
これまでの建設業界は、元請けが下請けを叩いてコストを抑える構造だった。
監督業務には高度な知識と経験が必要であり、元請けが不当な利益を得ていたとは言わない。
しかし、現場で汗をかいてきたのは下請けだ。
その下請けが「その値段ではやらない」「他に仕事はいくらでもある」と言える状況になった。
構造は、すでに逆転している。
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同じ構造は全国に広がっている
この話は名古屋だけのものではない。中野サンプラザの建て替え問題も、構造はまったく同じ。
広島市内を見渡しても、老朽化した建物が解体され、そのまま砂利敷きの駐車場になっている場所が増えている。
中心部を少し外れたエリアで、こうした光景を見かけることが多くなった。
本当は建て替えたかった。しかし「将来得られる収益 と建設コスト」が見合わない。
そこで、とりあえず駐車場にして固定資産税を払いながら時間を稼ぐ。
だがこれは一時的な課題ではなく、構造的な問題であり、今後も続くと考えられる。
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人手不足は教育の帰結でもある
この問題の背景には、長年の教育と社会構造がある。
工業高校を減らし、普通科を増やした結果、現場仕事を担う人材が減った。
いわゆる3K、きつい・汚い・危険な仕事は敬遠され、ホワイトカラーが志向されてきた。
その皮肉な結末として、ホワイトカラーはこれからAIに置き換えられていく。
AIレベルの仕事であれば、文句も言わず、給料もいらず、24時間働くAIの方が合理的である。
一方で、現場仕事はAIでは代替できない。
ここに、深刻な人材のミスマッチが生じている。
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現場仕事の価値が跳ね上がる
これからの時代、家や建物を建てる人、直せる人は仕事を選べるようになる。
水道工事ひとつとっても、誰でもできるわけではない。
依頼する側は「どうかお願いします」と頭を下げるしかなくなる。
一方で、新築住宅はますます建ちにくくなる。
材料費は高騰し、人件費も上がり続けている。
コストプッシュ型インフレの中で、新築は贅沢品に近づいていく。
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増えていくDIY住宅
政府は中古住宅取得に対する減税を拡大しようとしているが、体感としては焼け石に水である。
これから増えるのは、中古住宅を買い、自分で直して住むという選択だ。
YouTubeを見れば、すでに兆候ははっきりしている。
プロやセミプロがノウハウを公開し、多くの人が学び始めている。
空き家は大量にある。
しかし、業者にリフォームを頼めば途方もない金額になる。
ならば、自分でやるしかない。
これは趣味ではなく、住宅供給が追いつかない現実への適応である。
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職人がいなくなった先に待つもの
団塊ジュニア世代の職人が引退すれば、状況はさらに厳しくなる。
中古住宅を直す仕事は、新築以上に難しい。
現場で寸法を合わせ、その場で判断しながら作る高度な技能が必要だ。
そうした職人は、一般住宅には来てくれなくなるだろう。
来るものは止められない。
重要なのは、その中でどうサバイブするかだ。
リフォームを考えているなら、今のうちに動くべきだ。
これからは値段が上がる一方になる。
早く頼むか、自分でやる覚悟を決めるか。
その二択に、社会は急速に近づいている。