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快食ボイス687・なぜ日本人はクリスマスにケンタッキーを食べるのか

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先日、若い女子アナに「シャオヘイさん、クリスマスってどうされるんですか?」と聞かれた。 「いや、もう普通の日だよ。おっさんになると関係ないんだよ」と答えたところ、 「えっ、チキンとか食べないんですか?」と返された。 食べない……のだが、あとから考えてみると、「どこそこの鶏がおいしいよ」くらいの気の利いたことを 教えてあげればよかったのかもしれない。 若い世代にとって、クリスマスはまだそれなりに大事なイベントなのだろう。 そんなやりとりをきっかけに、今日はこの「クリスマス」という行事について少し整理してみたい。 --- 12月25日は本当にイエスの誕生日なのか まず前提から言うと、イエス・キリストが12月25日に生まれたとは、聖書には書いていない。 実際の誕生日は、分かっていない。 分からないが、12月25日ということにした。 これが正確な言い方である。 キリスト教が世界宗教へと拡大していく大きな転機となったのが、ローマ帝国の公認・国教化であった。 ただしローマ帝国には、もともと自前の宗教があった。 ギリシャ神話の流れを汲みつつ、日本の神道にも少し似た、自然発生的な多神信仰である。 その中心にあったのが、太陽神であった。 --- 冬至と「太陽の復活」 12月25日前後は、冬至に近い時期だ。 この時期は、夜が最も長くなり、そこを境に、少しずつ昼が長くなっていく。 つまり、 太陽が復活する時期 太陽の力が再び増していく時期 なのだ。 太陽がなければ寒い。 作物も育たない。 命そのものに直結する存在だ。 そのため、この時期は世界各地で太陽に関する祭りが行われてきた。 ローマでも、サトゥルナリア祭や「太陽の誕生日」のような行事があった。 そこでキリスト教を普及したい人たちは考えた。 「これからは、キリストこそが我々の太陽である」 そうやって、土着の信仰の上に、キリストの誕生を重ねた。 それが、12月25日という日付なのだ。 --- なぜクリスマスにごちそうを食べるのか クリスマスの前、約4週間はアドベント(待降節)と呼ばれる。 これは、イエス・キリストの誕生を待ちわびる期間であり、本来は節制と祈りの時期である。 贅沢は控え、心を整え、その反動として迎えるのが生誕祭だ。 だからこそ、その日はごちそうを食べる。 そこで選ばれたのが、ガチョウだった。 --- なぜガチョウなのか ガチョウは家畜として、少し特殊な立ち位置にある。 - 鶏は卵を産む - 牛は乳を出す 一方、ガチョウは肉と羽毛が主目的である。 しかも、 - 秋の収穫期に落ち穂を食べて勝手に太る - 放し飼いでも育つ - 秋が一番太っている - 卵は産むが、食用としての価値は低い つまり、潰しやすく、ごちそうにしやすい家畜だった。 ガチョウは都合が良かったのだ。 --- アメリカで七面鳥に変わる この習慣がアメリカに渡ると、ガチョウは七面鳥(ターキー)に置き換わる。 七面鳥はアメリカ固有種で、 - 体が大きい - 食べ応えがある - 基本的に食用 ディケンズの『クリスマス・キャロル』で、改心したスクルージが大きな七面鳥を貧しい家に送る場面があるが、ああした描写もこの流れを後押しした。 こうして、「クリスマス=ターキー」が定着していく。 --- では、なぜ日本はチキンなのか 日本には、七面鳥を食べる文化がない。 - 自生していない - そこまで美味しい肉でもない - 大きなオーブンが家庭にない その隙間に入り込んだのが、ケンタッキーフライドチキンだ。 1970年代、「クリスマスはチキンで祝おう」というキャンペーンが始まった。 結果、日本のクリスマスはほぼ「ケンタッキーの日」になった。 これはもう、宗教ではなくマーケティングの勝利である。 --- サンタクロースもまた戦略の産物である サンタクロースの原型は、4世紀頃の聖人、セント・ニコラウスだ。 貧しい家の娘たちを救うため、煙突から金貨を投げ入れ、それがたまたま靴下に入った――という逸話が、 「靴下にプレゼント」の由来とされる。 このニコラウスは、 - 東ローマ帝国 - オランダ(シンタクラース) - アメリカ という経路をたどり、名前も姿も変化する。 そして、赤い服で太った陽気なおじいさんという現在のイメージを決定づけたのが、コカ・コーラの広告戦略だと言われている。 ここにもまた、極めて洗練された「作られた物語」がある。 --- クリスマスは巨大な装置である こうして見ていくと、クリスマスという日は、 - 宗教 - 文化 - 季節 - 商業 - マーケティング それらが何層にも重なって作られた、巨大な装置だということが分かる。 夢がないと言う人がいるかもしれない。 だが、人が救われ、前向きになり、誰かを思いやるきっかけになるなら、それでいいのではないか。 宗教とは、もともとそういう側面を持つものだ。 --- おわりに というわけで、今年もまた「普通の日」がやってくる。 チキンを食べる人も、食べない人も、信じる人も、信じない人も。 それぞれの距離感で、それぞれの12月25日を過ごせばいい。 メリークリスマス!
10時間前
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