「野ばら」小川未明 1922(大正11)年発表
隣り合った大きな国と小さな国の国境。
大きな国からは老人の兵士が、小さな国からは青年の兵士が派遣されて、国境を守っていました。2人は仲良くなり、毎日、話をしたり将棋をさしたりして過ごしていました。
野ばらの咲く春がやがて冬になり、また春となったころ、2つの国は戦争を始めました。
老人は言いました。
「おまえさんと私は今日から敵どうしだ。
私は老いぼれていても少佐だから、私の首を持ってゆけば出世ができる。だから、殺してください。」
それを聞いて、青年はあきれた顔をして言いました。
「なにをいわれますか。どうして私とあなたとが敵どうしでしょう。…」
青年は北の、遠くの戦地へ去ってしまいました。
残された老人は青年を案じながら、石碑を守っていましたが、そこを通りかかった旅人から、戦争の成り行きを聞いたのです。……
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戦争が起こらなければ、たとえ国が違っても、親しい者どうしが引き裂かれることはなかったでしょう。一見、戦争の無惨さを表しているように思えます。
しかし何度も読むうち、老人の「敵どうしだから、私を殺して手柄にしなさい。」という言葉を、青年がどう受け止めたかが気になり始めました。青年はあきれた顔をして「どうして…」と老人の言葉に抗ったのです。
青年は老人の言葉に絶望したのではないか。だからこそ死を覚悟して戦地へ向かったのではないか。
老人から「国は敵どうしになっても、私とあなたは変わらない」と言われていたら……青年はそう言って欲しかったのではないか、と思うのです。
老人は青年の心に気づいていたのでしょうか。
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